『関先生とゆき先生〜fair soldier』

・アバンタイトル:『ONE PIECE』第74話「魔のキャンドル!無念の涙と怒りの涙」

・オープニング:「しょうちのすけ / 推定少女」(『ワンピ』4thEDテーマ)



 ここはとある料亭。和室を貸切りにして、料理をつつきながら談笑する2人の女性。

 細かい描写は抜きにしよう(そんな文章力があればの話だが)。関先生と、ゆき先生である。

「だけど、2人っきりで食事なんて久々だね」

「そうね……お互いに最近、色々忙しかったし。長門さんのこともあったし……」

 そう言って、うつむくゆき先生。

「長門」というのは、関先生のクラスの不登校の生徒だ。不登校の原因こそまだ明らかではないが、彼女を放っておくような人間など、この美空町では明らかに少数派だろう。関先生、ゆき先生が、その少数派に属してなどいないことは言うまでもない。

 そして、関先生の教え子たちも。

「春風が、長門と仲良くなってるみたいだし……希望はまだ充分あるさ。もちろん、私たちもできる限りのことはしないとな」

「でも張り切りすぎて、この間みたいに倒れたりしないでね」

 笑って答えるゆき先生。

 ともあれこの食事会は、よい息抜きになったことだろう。関先生にとっても、ゆき先生にとっても。

 懸念があるとすれば…

「…ちょうど1万円、か」

 テーブルの伝票を手にとって、ゆき先生が言う。久しぶりなんだし、という事で割と高めの店を選んでいたのだ。

「どうする? お勘定」

「ワリカンでいいんじゃない?」

 と、あっさり答える関先生。

「今までずっと2人でやってきたんだ。お互い様、ってことで」

「そうね」

 微笑んで、うなずくゆき先生。

 その時――



「なーっはははははは。なーっはははははは」

 その、突然の笑い声に2人は、その声の主を探そうと振り返り…絶句した。

「お前たち、その金、本当に平等に分けたつもりなのかい?」

 どこからともなく流れるBGM。それをバックに、和室の障子の上にある壁にへばりついていた男が言う。更に。

「半分イコール平等という先入観だらけの現代社会に真の平等を伝授する彼こそが、公平戦士ザ・センター○ンだ!」

 何故かU村座長ではなく、矢田父orももこ父のナレーションが流れる。よって、○には「モ」を入れても一向に構わない。

 ナレーションが終わると同時に、BGMも止まった。

 だが、男はまだ降りてこない。柱にしっかりしがみつき、足をじたばたさせながら、

「すいません、どちらか手を貸してもらえませんか?」

 どうも1人では降りられないらしい。

『嫌』

 即答する2人。同時に、何とか我に帰ったようだ。

 あっさり拒否されたその男は、障子を破って足場を作り、しかし足を滑らせて床に落ち、要はたっぷりと時間をかけながら、何とかして降り、立ち上がった。

 そして、何やらポーズなどをとりながら、言ってくる。

「人は、五分だ五分だと言うけれど、ホントは七三ぐらいが丁度いい。ザ・センターマ……」

「変質者だ。警察を呼ぼう」

「わかったわ」

「待てっ!!」

 まっとうな反応をとる関先生、ゆき先生を何故か制止したその男であった。



「せめて名乗りくらい全部きちんとやらせてくれたっていいだろう!?」

「全部言っちゃったら色々マズいでしょ。実際どの辺までアリなのかどうかわかんないけど」

「ともかく! そんな格好をした人間の言うことなんか聞く必要ないね」

「そんな格好」。

 関先生はそう言った。

 ならば、どんな格好か。彼は自らを「〜マン」と名乗った。おそらくは「バトルレンジャー」に類するようなヒーローにあやかった名前なのだろう。いや、本人自身はヒーローのつもりなのかもしれないが。

 だが、その「格好」は奇抜を通り越し、明らかに常軌を逸していた。確かにその格好は、青を基調にしたヒーローらしい衣装では、あった。

 ただし――半分だけ。

 左半分だけの衣装だったのだ。

 よって、右半分はスッポンポンである。

 ヘンタイ以外の何者でもなかった。

 そのヘンタイを、仮に「半分の人」と呼ぶことにする。

 ともかく、ゆき先生がこう続けた。

「そうよ。そんなびんぼっちゃまの『正面だけスーツ、後ろは丸裸』の二番煎じみたいな格好した人と、どうやって会話するのよ」

「そんなマニアックな例えを出すな!」

「じゃあ、あしゅら男爵って言ったほうが解り易いかしら?」

「うむ。だいぶ解りがいい感じだ」

「……会話できてるじゃないか」

 しっかりコミュニケーションをなしているゆき先生と半分の人を見て、ため息をつく関先生。

「そういえばこの間も、春風たちの手伝ってる店に、はっぱ1枚だけつけた変質者6人がやってきたって聞いたけど……いつの間にこの街も、そんな物騒な……」

「何だと!?」

 関先生の言葉に、半分の人は明らかに過剰な反応を返していた。

「あんた……あいつらを知ってるのか!?」

「……話だけなら」

「何てこった……『笑犬』の新たな裸系キャラとして売れまくってるあいつらに先を越されたとは……誰のお陰で、裸系キャラが受け入れられる下地が出来たと思ってるんだ。俺が頑張ってたからだろう。そうだろう先生!?」

「私に聞くな」

 冷たくツッコむ関先生。

「まぁいいだろう、はっぱの連中なんかどうでもいい! 問題はゆき先生だよ。ゆき先生、ホントにこれでいいのかい?」

「……何が?」

「お勘定の話だ! ゆき先生、ホントにワリカンで――五分と五分でいいのかい?」

「……いいんじゃない?」

 ゆき先生の答えに、その半分の人は。

「ほぅ…………」

 と、力なくため息をついた。続いて言う。

「ゆき先生は本当に、アレだな」

「何よ、アレって」

 ツッコむゆき先生。

 と突然、半分の男が2人に問うてきた。

「じゃあ、お二人に聞くが…『どれみ』が3年目に入って、要は『も〜っと!』が始まってから、何回出番があった? まずはゆき先生から」

「え?」

 あからさまに表情を変えるゆき先生。

「何回だ?」

 顔を近づけてくる半分の人――何せ顔のメイクまで左半分だけなので、その形相たるやエラいものがあった――の迫力に負けて、ゆき先生が口を開いた。

「……2回」

「ほぅ。じゃあ、関先生は?」

「いや、数えたことないけど……そもそも何回出たかは問題じゃないだろう。結局は、その出番の間に何をしたか――つまりは中身だと思うけど」

 関先生の主張に、半分の人は。

「その言葉、聞きたかったですよ。さすが関先生だ」

 感動したらしかった。そして。

「おい、ゆき先生! お前は、何じめだ!?」

『何じめ?』

 声をハモらせる2人に、いやゆき先生に、半分の人が言い放った。

「お前は、みじめだ! Let’s Go!」

 その、半分の人の掛け声に合わせて。

 突然、3人のいた和室が左右に割れ……

 セットがハケる(?)と、そこには「50/50」と書かれた電飾が、そして十数人のレオタードのダンサーらしき女性がスタンバっていた。

 そして、2人に驚く暇すら与えぬまま…

 半分の人と、ダンサーが踊りだした。



「関先生は凄い ゆき先生はみじめ 本当に平等なのか〜♪
 本当に五分と五分か〜♪」

 下手な歌など唄いながら、踊り続ける半分の人とダンサーたち。

 その「曲」に、そしてダンス――とりわけ、エビ反り型の決めポーズに――に、2人は覚えがあった。

「これは…『武○士』のCMの!」

「『シンクロナイズド・ラブ』ってタイトルだったと思うわ。この曲のクリーンなイメージに騙されて、軽い気持ちでキャッシュして知らないうちに利息増やされて裁判起こされて敗訴して莫大な借金作って取り立てに苦しんでる人たちがどれくらいいることか。まぁそんなことは武○士に限った話じゃないけどね。どこも一緒。皆も気をつけるのよ」

 誰に言ってるんだ、ゆき先生。

「……で、これが何?」

「まだ解らないんですか、ゆき先生」

 決めポーズをいつの間にやら解いたのか、半分の人が再び立ち上がり、2人の前に――ゆき先生の前にやってくる。

「ゆき先生に聞く! ゆき先生は、今の関先生と、『#』中盤――具体的には2000年9月3日OAの第30話『関先生に恋人が出来た?』以前の関先生と、どっちが好きだ?」

「……あーもー何が言いたいかわかっちゃったけど、どっちも好きに決まってるでしょ!?」

「よし。『#』30話以前の関先生だな」

「言ってないって」

「全くあなたは、何りみだ?」

「いや、『りみ』って何よ。『りみ』って」

「お前は、独り身だ! Let’s Go!」

 そして再び、例の「曲」が流れる。

「関先生は彼氏持ち ゆき先生は独り身 本当に平等なのか〜♪
 本当に五分と五分か〜♪」

 で、やっぱり踊って唄った半分の人(と、ダンサーたち)。

 その間関先生は、眼鏡を光らせて魔法か何かでも使いそうな勢いのゆき先生を必死に抑えていた。

 と。

「でも私たちって、ずっと一緒にやってきて、差がついてるかもな……」

 その、関先生の言葉にゆき先生が大きくコケ、我に帰る。

「ちょ、ちょっと関先生、そこの半分の人にダマされてるわよ!?」

「いや、ダマされていないかもしれない」

「私、あなたの彼氏より、話してる時間長いのよ!?」

「喜多川さんは関係ないって」

「お互い様だって、さっき言ってたじゃない!? ダマされないでよ!?」

「いや〜、これは難しいと思うな……」

 どうやら修羅場に突入したらしい(違)2人に、半分の人が割り込んできた。

「ゆき先生、じゃあ聞くが、『無印』開始当時のどれみちゃんたちと、今のどれみちゃんたちは何が違う?」

「……衣装?」

「外見の問題じゃない。中身だ! 関先生が、いみじくもさっき言っていたように、『何をしたか』だ! いいかゆき先生、『も〜っと!』20話であんた、何をした? いや、何が出来た?」

「何って……倒れた関先生のフォローをしに、長門さんの家へ春風さんと飛鳥さんと一緒に行ったけど」

「しかし……出番はそれだけだったはずだ!」

「!」

 あからさまに、ゆき先生の表情が変わった。

 フフフフフ〜ン♪ と、バックのダンサーがさっきの「曲」をハミングで唄い出す。合わせて半分の人が語りだした。

「結局彼女は――どれみちゃんは、1人でかよこちゃんの心を開く第一歩を踏み出すことに成功した。
 しかし『無印』、とりわけ初期の頃の彼女は違った。2話では自分がはづきちゃんを傷つけてしまったその訳がわからず、ゆき先生に相談に乗ってもらった。あの頃の彼女はまだまだ精神的に未熟だった。だからこそ、カウンセラーとしてのゆき先生の力を必要としていた……
 しかし、今は違う。彼女も番組初めてもう3年目、アニメの世界では立派なベテランだ。よって、あなたの力なくとも、彼女は活躍ができる。違うかい?」

 ぐぅの音も出ないゆき先生。半分の男の講釈は止まらない。

「だからこそ、関先生は彼氏を作ったり何だりして、自分のパーソナリティを増やすことで出番を作った。主人公の担任だから何もしなくても出番はあるだろう、とあぐらをかくことなくだ。
 しかし、あなたは違う。別に彼氏に限った話じゃないが、パーソナリティーが何一つ増えていない。これでは出番など望むべくもないだろう。例えば彼氏を作るなどする必要があるのだ。別に彼氏に限った話じゃ……」

「彼氏彼氏彼氏彼氏って連呼してるじゃないっ!」

 たまらずゆき先生がツッコむ。

「ホッといてよ! どうせあなただって彼女いないくせに」

「何を言う。俺だって妻子ぐらいいるよ」

 ぴしっ。

 その言葉に、ゆき先生の眼鏡にひびが入った。

「あんた奥さんいたの!?」

 と問うのは関先生だ。

「当たり前だい。愛してるよ」

「奥さんはそれ見て、何とも思ってないの?」

「センター○ンは見ないようにしているよ」

「子供は?」

「娘は泣いたよ」

「じゃあやめなって……今すぐ……」

 呆れてつぶやく関先生。

 と。

「それはどうでも……よくはないけど、話を戻そう。確かに、私とゆき先生は、平等じゃないかもしれない」

「え?」

 虚脱状態になっていたゆき先生が、関先生のその言葉に何とか復活する。

「やっぱりここの勘定は、私がお金を出してさらにゆき先生に1万円やるよ。それでいいと思う」

「何でっ!?」

「それで五分と五分だ」

「ちょっと待ていっ」

 突然割り込む半分の人。

「関先生、20対0はヒドくないかい? あの子も僕たちと一緒に酸素を吸ってる子だよ?」

「どーいう意味よっ」

 ツッコむも、どうやら無視されたらしいゆき先生だった。しかも2人に。

「じゃあ、ここは私が1万円出して、ゆき先生にはオゴるよ。それでいいんだね?」

「うん、よかったな、ゆき先生」

「よくないわよっ! 私たちの友情がズタボロじゃない」

 抗議するゆき先生だが、関先生は何故か納得してしまったらしい。何故かは知らんが、元ネタがそーいう構成のコントなので仕方ないだろう(←そうか?)。

「いや、これでスッキリしたよ。ありがとう」

 とうとう半分の人に礼まで言い出した。

「関先生、絶対に騙されてるって……」

「大丈夫ゆき先生、私がオゴるから……」

 そう話し合いながら、去っていく2人。それを見送りながら半分の人は。

「いいコンビだ。どこまでも伸びるがいいさ。とりあえず、ゆき先生があのはっぱの連中の世話になるようなことがないよう祈っておこう」

 と言った後。

「ハイ、じゃ、集合」

 バックダンサーの皆さんに集合をかけ、反省会を開こうとした……が。

「……あれ?」

 その姿が見えない。先に帰ってしまったのだろうか。

「まさかあいつら……またセンター○ンUSAのところに――」

 とつぶやこうとして――

 半分の人が凍りついた。

 ……大挙してやってきた、警官隊を目にして。



「猥褻物陳列罪に不法侵入、あとは器物破損かな。ま、それはそれ、これはこれということで」

「よかった…完全に洗脳されちゃってたわけじゃないのね、関先生……」



 追記。

 センター○ンUSAが出没したのは、MAHO堂でのことだった。どうやら平野兄妹のケーキを半分ずつにしようとした時に登場したらしい。

 彼もまた、ダンサー共々フッ飛ばされたのを小竹に目撃されたことは言うまでもない。

 …だって、かりんが余分に苺貰ってた時点で七三だから(←そういう問題じゃないだろ)



・エンディング:『YATTA! / はっぱ隊』(『笑う犬の冒険』EDテーマ)

・次回予告:『10円vsあいこ』(本気で怒られるぞお前)



 ……やっぱりオチないまま、完結。


蛇足解説。

この文章は、2001年7月下旬に、『どれみっち研究所』さんの投稿小説コーナー「おジャ魔女SS」内の、「おジャ魔女どれみ外伝」に投稿させていただいたものです。

…懲りない奴でごめんなさい(滝涙)。

元ネタは『センターマン』。ネプの原田泰三さんが、己の武器たる裸(南原さんは「既に立派な衣装」だとおっしゃってましたが)を駆使して創り上げた、笑犬最強キャラの1人です。
そしてこの話は、「内村と南原」という、センターマンでも最高傑作といえる作品にリスペクトを受けて、書いたものです。
…物凄く影響を受けた作品とも言います。
……オマージュ、とも言います。

………
すみません半分くらいはそのまんまです………

あの2人のやり取りが、どーも好きで。

南原「やっぱりここの勘定は、俺がお金を出してさらに内村に1万円やるよ。それでいいと思う」

とか。

内村「俺はお前の奥さんより、話してる時間長いんだぞ?」

とか…そして。

センターマン「ナンちゃん、20対0はヒドくないかい? あの子も僕たちと一緒に酸素を吸ってる子だよ?」

というセンターマンのツッコミも、屈指の出来でした。

…あの頃の『笑犬』が一番輝いていたなぁ…(遠い目)。
あ、ちなみに「センターマンUSA」というのは、センターマンのライバルなのですが、ダンサー出身なので原田さんよりはるかにダンス上手いです(当たり前)。てなわけで、センターマンおつきのダンサーも、「反省会」でのさんさんの忠告には耳を貸さずに、USAのほうに流れていったという…でも確かあのかたって、フィンランド出身だってセンターマンが言ってたな(笑)。



んで、主題。
「ゆき先生はどうして出番が少なくなったのか」
これを徹底的に検証させました。「半分の人」に(笑)。

例えば、工藤むつみ。
「長谷部たけしと幼なじみ」という設定が加わったことで、さらにキャラクタ性が深まりましたよね?
矢田も矢田で、「ライバル長谷部」という新たな人間関係が生まれて、活躍の場が広がったし。

結局、筆者が言いたかったのはこういうことです。
「ゆき先生の設定をもっと増やしてください」と。

例えば、長門かよこ。
一時期保健室登校してたなら、ゆき先生と親しいはずだよな。そうだよな? 勉強教えられたり、一緒に給食食べたりしてたんだよな!?(←落ち着け)
…いや真面目の話で、2人の人間関係を掘り下げて欲しいです。願。



最後に。これはオフ会でお会いした、とあるかたの言葉です。
「人間関係が増えるのは、どんどんキャラクタの設定が豊かになっていくからいいことだ」と、そんな大意の言葉をお聞きしました。
またむつみの話ですが(笑)、幼なじみ・長谷部の登場は、むつみストにとって脅威だったのかもしれません。
ですが彼の登場によって、さらにむつみの出番は、活躍は増えていった。どんどん深みのあるキャラクタになっていった。
この前例を、そのまんまゆき先生に適用させてくれないかな…と、そんなこと考えてます。



PS どれ研さんで感想レス(多謝!!)つけてくださった、さるかたの提案です。

 センターマンの声の出演 = 千葉繁さん。

…ハマりすぎッス(笑)!!


公開日:2002年08月04日
第一次修正:2002年09月23日
第二次修正:2002年10月14日
第三次修正:2003年10月日