春風どれみ Harukaze Doremi
今日のテーマは、「春風どれみ」です。どれみと言えば、主人公。そう、子供たちの憧れです。何せ主人公なのですから。
そんな主人公たるどれみが、自分を「世界一不幸」などと嘆く。こんなことがあっていいのでしょうか。
T>何だよ急に。
彼女が「世界一不幸」と叫んでいる今も、アフガンの難民は…
T>そんな問題じゃねぇだろ!
何て思いやりのない主人公でしょうか。
T>絶対違うよ!
彼女が自分の好物たるステーキが食べられないことを「世界一不幸」と呼ぶのなら、今日の食べ物を探すのにも一苦労した戦後まもなくの日本人や、今なお飢餓に苦しむ世界の人々は一体どれくらい不幸なんでしょうか。
T>いいだろ別に! 子供の話なんだから!
まさに前代未聞の主人公です。
T>お前の発言が前代未聞だよ。
そう、型破りの主人公。私は彼女のその主人公としての斬新さに注目しています。
まずはお団子。
T>いや待てよ!
あんな斬新な髪形をした主人公が、かつていたでしょうか。
T>お前絶対わざと言ってんだろ!
篠原ともえくらいでしょう。
T>別にアニメキャラじゃねぇし。
今、何してるんでしょうか。とても心配です。
T>余計なお世話だよ!
そして何と言っても、その性格。誰とでも友達になり、困っている人がいれば決して黙っていない、優しい性格。こう言うと、実にありきたりな主人公像に聞こえるかもしれません。しかし、そうではないのです。
かつて「癒し」という言葉が流行った時期がありました。「癒し」…私はこの言葉があまり好きではありません。癒されたいということは、どこか病気だということなのですから。そして単に癒されるだけでは、何の解決にはならないのです。
その点、彼女は違います。ただ誰かを助けるだけではなく、その人の意思をくみ取り、最大限に尊重する。結果助けられた側は自分を見直し、自分の意思で歩いていけるようになる。彼女は、その後押しをしているだけなのです。
魔女見習いである彼女の魔法の使い方から見ても、それがよくわかります。魔法とは強大な力です。これさえあれば神にでも悪魔にでもなれるでしょう。
T>マジンガーZかよ。
魔女になることだって夢ではありません。
T>何か矛盾してるぞ。
しかし彼女は、魔法を使って直接誰かを助けようとはしません。例えばドラえもんは、のび太くんが求めるがままにひみつ道具を貸し与えます。そう、求めるがままに。断りきれず…泣く泣く…なすがままに…
T>そこまでヒドかないよ!
そんなマンガが国民的漫画になっていいのでしょうか。
T>それも違うよ!
しかしどれみは、そうではありません。誰かを助けてあげたい時、即物的に魔法を使ったりなどしません。その人を助けるために、どんな手段をとれば最適な結果が得られるのか。本当にその人を救うには、どうしたらいいのか。きちんと状況を分析し、冷静な判断力をもって行動に移ります。
T>ウソだよ、ウソ!
…それを、深く考えることなく実践できるから、「春風どれみ」は斬新的なのです。
ただ、誰かを助けたい。その思いを外に現すだけで、彼女は人を救います。考えるのではなく、純粋な気持ちをあらわすことを第一に行動します。だから時にはドジも踏むし、走って転ぶし、穴にも落ちます。犬にも吠えられ、ドブに落ち、ジャイアンやママやかみなりさんから逃げ回ってばかりです。
T>後半違う人になってるよ!
ツッコミもイマイチです。
T>うるせぇよ!
それでも彼女が誰からも慕われるのは、そんな彼女の思いが人の心に直接届き、「癒し」ではない本当の「救い」が行われているからでしょう。あくまでも救うのは、彼女ではありません。彼女の思いに当てられた、その人自身なのです。
時に、我々の想像を絶するような結果を生み出すどれみの魔法も、きっとそんな彼女の思いが具現化したということなのでしょう。その意味では、彼女は誰よりも魔法を使いこなしていると言えます。
ひみつ道具のヘンな使い方しか思いつかないのび太くんのように。
T>こだわるよな、お前も。
そして、そういった真の優しさを発揮するには、何より人の苦しみを理解することができねばなりません。
だからこそ彼女は、「世界一不幸」でなければならないのです。不幸だからこそ、人の痛みを自分のもののように感じられる。「世界一不幸」だからこそ、春風どれみは春風どれみでいられるのです。
彼女は、「世界一不幸」である宿命から逃げることはできないのです。
T>何か言い方変だぞ。
これからも一生、彼女は「世界一不幸」であり続けることでしょう。
T>いや待てよ!
きっと近い将来、あまりの成績不順故に高校受験を失敗、ドジ故に間違えて誰かの保証人となり莫大な借金を抱えて路頭に迷うことでしょう。
T>嫌だよそんなの!
まぁ、たとえそうなったとしても、彼女が嘆くのは「ステーキが食べれないこと」だけなのでしょうが。
T>そんなことないよ!
ある種、彼女は幸せな人生を送れるのかもしれません。以上、コラムでした。
公開日:2002年06月16日