藤原はづき Fujiwara Hazuki
今日のテーマは、「影が薄い」です。
T>違うよ!
主人公春風どれみの幼なじみ、はづき。彼女はその頃から、どれみに苦汁をなめさせられ続けてきました。
T>誰の話だよ、だから!
決して自分より成績が優れているわけでもない、かといって日常でもドジばかり。それなのに憎まれることなく、むしろ自分よりずっと人気者で、いつ見てもクラスの中心人物…自分よりはるかに自己主張の強い彼女に、彼女はいつしか殺意を覚えていったのです…
T>ないない。それは絶対ない!!
ネクストコナン、「MAHO堂殺人事件」。
T>見たかねぇよ、そんなコナン!
ネクストコナンズヒントは、もちろん「メガネ」で。
T>そのまんまじゃねぇかよ。
思い起こせば、『おジャ魔女どれみ』が始まった頃、彼女は当時3人だったMAHO堂の面々の中でも、トップを張る人気でした。彼女の主役話が2回連続で続いたり、彼女だけ夏服の設定を作られたりなど、今では考えられないくらいの優遇振りです。
それが今や、元敵のおんぷやなんちゃって外人に全てを奪われてしまいました。
T>そんな言い方よせよ!
特にももこの登場は、彼女にとって脅威でした。かつて、天然ボケははづきの領域だったのです。お嬢様という設定ゆえの、世間ズレ。それが彼女の面白さを、これ以上なくかもし出していました。
それなのに…あのなんちゃって外人が現れて以降、天然ボケというポジションまで奪われてしまいました。帰国子女という設定ゆえの、日本ズレ。確かにこっちのほうが面白いです。
T>そんなこと言うなよ。
あまつさえあのなんちゃって外人は、『も〜っと!』29話、毎年恒例の肝試し話で、「お化け嫌い」というはづきのパーソナリティまでもを奪っていきました。お化けに対するリアクション、確かになんちゃって外人のほうが新鮮です。そしてこの話のメインすら、なんちゃって外人は奪っていった。あいこと一緒に、ゲストキャラとすらからめませんでした。
結果、ネクストコナン。「ニセ外人殺人事件」。
T>そこから離れてくれ、頼むから!
コナンズヒントは「ピー君」。共犯者です。
T>何をやったんだよ、玉木は!
しかし私は、『無印』時代だけ、はづきが幸せだったとは思えません。どれみに「世界一不幸な美少女」という道があるように、彼女は彼女なりの道があるように思います。
なぜ、彼女は自己主張をそれ程しないのでしょうか。気が弱いといってしまえばそれまでですが、それだけではありません。
自分の意見を主張すること。それは大事です。しかし、その主張は時に、人を傷つけ、岩を砕き、海を割ります。
T>どんな主張だよ! それじゃ必殺技だろ、既に!
それを恐れるあまり、彼女は自分を抑えることにしているのでは。そう思います。その優しさゆえに、彼女は口をつむいでいるということなのです。
…何様のつもりなのでしょうか。
T>急になんだよ、だから!
それだけ自分の発言は、人の心をえぐるほど影響力の強いものだとでも思っているのでしょうか。
T>思ってねぇよ!
裏を返せばそれは、自分がたいそうなものであるという自己過信へとつながるように思います。人はそこまで、自分のことを気にしてはいないのです。それは無関心な場合もあるし、信頼しているという場合もあります。ちょっと気に障るような発言を聞いたとしても、「それは言いかたをちょっと間違っただけで、傷つけるつもりはなかった」と思い、気にしない。そんな風に理解してくれている人たちが、彼女には確実にいます。しかしそれを忘れ、口をつむぎ続けることは、すなわちそんな理解者たち、友人たちを信用していないということにはならないでしょうか。
まず、発言してみること。それが大事です。その主張が間違っていたとしても、ツッコミを入れてくれる大親友が、彼女にはいるのですから。
T>お前が何様だよ。
…そのツッコミがズレていたりする場合もありますが。
T>ねぇよ!
何せ全員、魔女見習いで母親で、複雑な事情持ち。最近はそれに、精神年齢2歳の本物の魔女まで加わりました。もはやMAHO堂に、マトモな小学生は一人もいません。
大体、あんなカラフルな髪型をした小学生など見たことありません。
T>仕方ないだろ、アニメなんだから!
そしてみんなして歪んでいくMAHO堂。今日も彼女たちは余計な事情に首を突っ込み、事態を悪化させていく…
T>聞いたことねぇぞ、そんな話!
もはや、一番マトモなのはぽっぷでしょう。彼女に教えを請うのが、一番の近道かもしれません。
T>小2だぞ、ぽっぷ。
ともあれ、彼女は優しいです。必要以上に。
極力人を傷つけたくない。その思いは、まさにどれみと同じものです。
しかし、そのやりかたはどれみとは少々違っています。どんどん前面へと出て行こうとし、何でもかんでも首を突っ込もうとしているどれみ。それゆえ、どれみはこれでもかというくらいドジを踏み、何度となく失敗し、結果取り返しのつかない過ちを犯して…
T>さっきからどこの誰の話してんだよ、お前は!
…しまわないのは、親友のはづきの存在があってのもの。そうは考えられないでしょうか。
そもそも、彼女の存在感とは、どこで発揮されるものなのでしょう。
例えば、矢田くん話。次に、まさるくん話。そして何といっても、はづきの「ただの幼なじみ」ということになっている少年の話。
T>全部同じだよ!
人には、それぞれ役割というものがあります。例を挙げるなら、『ガンダムW』の主人公5人。何故か全員美少年な彼ら5人が、みんなヒイロのようだったら、誰も彼もが自爆してしまって収拾がつきません。
T>どんな例えだよ!
『Gガンダム』のシャッフル同盟が、みんなドモンのようだったら、最終回は5人全員で盛大に告白。『ねるとん』のようになってしまいます。
T>そんな問題じゃねぇよ!
それでは物語は集結しない…いや、人間関係が成立しないのです。皆さんにも覚えがあるでしょう。誰かが自爆すれば、必ずそれをフォローする人間が必要とされるのです。
この場合の「自爆」とはもちろん、最大のピンチを迎えた時に、スイッチを押して自分の機体を爆破させることを意味します。
T>そのまんまじゃダメだろ! あり得ねぇよ、そんな状況!
先ほど言いましたが、本質的にドジであるどれみにとって、それをサポートしてくれる存在は必要不可欠なのです。例えば、人付き合いの上手いあいこが交渉を担当し、世知に長けたおんぷが冷静に事態を見据える。そして、なんちゃって外人が引っかき回す。
T>何かももこに恨みでもあるのか、お前。
そしてはづきの役割は、その知識と知性を生かした参謀役、といったところでしょうか。
彼女は何も考えていないから、発言しないわけではありません。むしろ考えすぎるから発言しない、そんなタイプの人間です。
よって、こと思考能力にかけては、他のメンバーの追随を許しません。平常心の維持についてはおんぷに大きく水をあけられていても、確かな知識に裏付けられた発想力や応用力は確かなものを持っています。
この能力は、行動力の突出したどれみには決してないものです。
そしてその能力は、目立たないところにいる彼女のポジションにおいて、最も発揮されるのではないでしょうか。前に出ていくどれみたちを、後ろから支えていくのが、MAHO堂におけるはづきの役割だと私は考えます。
そう、彼女はむしろ、影を薄くすべきキャラなのです。
T>何か言い方にトゲがあるよな、それ。
考えても見てください。自己主張が強く、ズカズカと人の心に立ち入って、スポーツも喋りも得意で、笑いのセンスも高い。そしてピンチになったら自爆する。
T>ヒイロは関係ねぇよ!
はづきが突如そんなキャラになったら、MAHO堂での人間関係は破綻してしまいます。
そうではなく、隠されたところで皆を援護するようなポジション。そこでこそ、彼女の存在感はキラリと輝く。藤原はづきが"はづき"でいられるのは、まさにそんな場所にいてこそなのではないでしょうか。
…そう。彼女の影の薄さは、もはや前世から約束された運命なのです。
T>前世ってのはどこから来たんだよ!
だから彼女の出番が少なく、目立たず、影が薄いという事実は、彼女のキャラ、役割が背負っている宿命だといえるでしょう。
そのキャラ、役割故に、今後とも彼女の出番が増えるということは、決してあり得ないのです。
T>そんなことないだろ!
さようなら、はづき。その存在は、とりあえず矢田くんくらいなら覚えていてくれるでしょう。
T>おい!
人が死ぬのは人に忘れられた時です。これからも、何とか生き延びてください。以上、コラムでした。
公開日:2002年07月20日
第一次修正:2002年09月23日