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『捨て身と捨て身の大戦闘(大嘘)』

1.アバンタイトル

 まさる(as ゾロ)「フンッ!!! フンッ!!!」(と、ラクダを乗せた刀を右手に、筋トレに励む)

 信子(as ウソップ)「その時よ!! あたしはこう言ってやったのよ…!! 『このガニ股野郎っ!!』 それからね。世界中のカニがガニ股を気にし始めたのは…」

 ももこ(as チョッパー)「Oh,I see!! だから横に歩くのネ!!」

 あいこ(as ナミ)「矢田くん、それ余計な体力使こてるだけやん」

 まさる「うるせェ!!」

 信子「ちなみに、その時後ろに跳びはねた奴もいるんだけど…それがエビよ!!」

 ももこ「What!? エビはじゃあ、カニなのネ!!」

 信子「ええ、カニよ」

 長谷部(as サンジ)「放っときゃいいんだよ、妹尾。あいつらは…何かしてねェと気が紛れねェんだよ。器用じゃねェんだ…特にあの体力バカは。七武海≠フレベルを一度、モロに味わってる…!!!」

 まさる「オイ、長谷部。何が言いてェんだ、ハッキリ言ってみろ」

 長谷部「ああ、言ってやろうか。お前はビビってんだ。小竹が先々代の女王に敗けちまうんじゃねェかってよ」

 まさる「…おれが!? ビビってるだァ!? ……この…モヒカン頭=i※ハムスター時)」

 長谷部「アッ!! カァッチ〜〜ン!! アッッッタマきたぜ、オァ!? この…ミドリムシ=i※触覚が)」

 まさる「何ィ!!?」

 まさる、長谷部「やんのかてめェ…」

 あいこ「やめんかい、くだらんわ!!!」

麦わらの一味≠乗せたハサミ(※巨大ガニの名前)は進む。果てなき砂漠を。首都アルバーナを目指して。



「…………?」

 唐突に、どれみは目を覚ました。窓からもれている太陽の光が原因らしい。

 時計を確認する。目覚ましはまだ鳴っていない。しかし、寝直すには時間が足りなさすぎる、そんな時間。

 彼女にしては実に珍しい、早い朝。

 朦朧とした意識が、徐々に回復してくる。今しがたまでの状況を確認した。夢。

 上半身をベッドから起こし、相変わらずお団子のまま就寝した頭を振る。

 寝ぼけ眼に入ってきたのは……一冊の本だった。タイトルにはこうある――『ONE PIECE』巻二十、と。開きっぱなしだったそれが、ちょうど目隠しのように顔にかかっていたのだろう。起き上がった時、布団の上に落ちたのだ。

 額を押さえ、口につくは、一番重要な疑問。

「いや…………、何故に小竹=ルフィ?」

 筆者の趣味である。



 追記。結局彼女は寝直して、寝過ごした。



・オープニング:「Believe / Folder 5」(『ONE PIECE』2ndOPテーマ)


2.Aパート

「北極だ!!」

「いや、南極だ!!」

 休み時間。胸倉をつかみ合い、威嚇しあう両者。ケンカの始まり。

 比較的、珍しいことではあった――この美空町では。世間を賑わす少年事件とは無縁とばかりに、すくすくと育っていく子供たち。それを導き、見守る大人たち。それらの調和が、この町の平和を形作っている。

 その意味では、こんな光景もその平和を形作る事象のうちのひとつなのかもしれない。

 そんな感慨を全く抱かずに、机に頬杖をついたどれみがつぶやく。

「……で、今度は何が原因なのさ?」

「話せば長くなるんだけどな」

 そう答えるは、前の席の小竹。

「こないだお前に貸した『ONE PIECE』の話を、皆でしてて」

「うん」

「2巻で、若い頃のシャンクスとバギーが、北極と南極のどっちが寒いかでケンカする、っていう回想シーンがあっただろ」

「……うん」

「でも、その話の中では答えが出てこなかったんだ。後の単行本に出てきてた覚えはあるんだけど、皆忘れてて」

 18巻P66の、SBS(=読者からの質問コーナー)参照。結構遅いです。調べてて筆者もちょっとびっくり。

 いやそもそも、ワンピの世界にも北極、南極があるってこと自体、驚きではあるのだが。

「実際にはどっちが寒いのか、って話になって。挙句の果て、コレ」

「……………………」

「ホーッホッホッホッ、嫌ですわこれだから野蛮な人たちは」

 類似品は他の作品のキャラを探せば、幾らでも出てくる高笑いと共に割り込んできたのは、小竹の隣の席の――そして何より、ももこの席の前の――玉木麗香(児童会長)。

「…………ごめん矢田くん、長谷部くん……フォローできそうにないッスよ……」

 頭を抱えて、どれみがうめく。どれみたちとは反対側に位置する、廊下側の後ろの席にいる2人の男子のほうを見て。

 無理もなかった。前々からケンカは少なくなかったが、ここのところ特にひどいように思える。何かにつけてケンカしてるような気がする。しかし、それでいてなぜか、お互いに大した怪我はしていない。

 すると――

「コダチニトウリュウ、カイテンケンブロクレ〜ン!!」

 いきなり、2人の間に割り込む強者が現れた。どこから持ってきたのか、両手に竹刀などを持って――しかも逆手で――、2人を牽制している。ももこだ。ケンカを止めるつもりなのだろう、が。

 何かが根本的に違っている。そんな気がした。

「は?」

「…………何だ?」

 目を点にして、2人が動きを止める。

 そう、止まった。ケンカが。その意味では、効果はあった。

「この前習った剣道をも〜っと! 勉強しようと思って、また調べてきたノ。他にも色んな必殺技があるんだヨ〜。え〜と、ヒテンミツルギリュウオウギ、アマカケルリュウノ――」

「あー、もういいってばももちゃん。ど〜も、失礼しました〜。……ちなみに小竹、この元ネタわかる?」

 そう説明し、今度は1本の竹刀で抜刀術の構えを見せたももこだったが、どれみに肩をつかまれて強制退去された。

「……『るろうに剣心』だろ。『ONE PIECE』の作者の師匠が描いてたマンガだよ」

「それにしても……最近の飛鳥さんって、転校してきた時と、随分性格が違ってきてませんこと?」

「だからどうして俺に聞くんだよ……」

 続いて、親友の姿にまっとうな疑問を口にする麗香(会長)。頭痛の止まらない小竹。

 単純に考えれば、日本の生活に慣れたことで「地」が出始めたってことなんだろうが。

 それもどうだろう。

 ともあれ、まさると長谷部は手を離した。そのまま席につく。水を刺され、とてもケンカなどできそうにない空気と化してしまった以上、無理もないが。

 と。

 ドタバタドタドタ。大仰な音を立てて、廊下を走る音が近づいてくる。

「…………来たみたいだね」

「今日は遅かったな」

 どれみ、小竹がその主に気づく。いや、5年1組のほとんど全員が。

 空いたドアから勢いよく飛び出してきた、その少女。

 足音が止まる。何とか静止し、身体のバランスをとって。

「まさるくん…………」

 息を切らしながら、名を呼んだ。幼なじみのその名を。

「藤原」

 まさるも応える。うざったそうに。「またか」と視線が言っていたが、それは彼らのケンカも同じだ。つーか、そのケンカのせいで彼女がやってくるのだから、全ての発端は彼らにあるわけで。

 一方長谷部は肩をすくめた。彼女が出てくると、自分はいつも蚊帳の外だ。つーか俺のことは心配しないのか、というちょっとした疑問も、少しある。まぁされても困るし、される必要もない。どうでもいいことだ。

「No problem,ダイジョーブだよ、はづきチャン。ケンカはワタシが止めたから」

「…………うん。間違っちゃいないんだけどさ」

 胸を張って、ももこが大親友に言う。どれみも同意(?)する。

「………………………………そう。ありがとう」

 例を述べて、はづきが去っていった。自分の役割はもうないのだと、理解して。

 その時。

 彼女の様子に、どれみが若干の疑念を覚えた。

「…………はづきちゃん?」

 ドアを出る瞬間、まさるに向けた彼女の視線が。

 やけに切なげに見えた気がして。



・タイトルコール

 どれみ「『ドクター、おれケンカしたの初めてだ』(by チョッパー)」

 あいこ「いや、それもちゃうって」



「まさると長谷部の席を変えてほしい?」

 給食の終わった、昼休みの職員室。かつての教え子――無論それは形式上のことで、今でも彼女の中でははづきも自分の「教え子」であるのだが――の、そんな頼みを聞いて、関先生は目を丸くした。

 こくりとうなずくはづき。その眼には、真剣な光があった。

「違うクラスの私に、そんなこと言う権利はないのは、充分わかってますけど……」

「いや、それはいいんだけどさ――」

 そう言ってから、関先生は少し考え込んだ。席替え、という単語にピンと来ている。1年前、彼女に同じことを頼まれた覚えがある。

 その時ケンカしていたのは、どれみとはづきだった。事情は知らないが、次の日にはすっかり仲直りしていた。自分の出る幕でもなかったらしい。おそらく、彼女の友人たちが尽力したのだろう。

 引っかかることとすれば1つ。当時隣同士だった席を嫌い席替えを要求したのは、はづきのほうが先だったこと。決して自己主張の強いほうとは言えない彼女が、である。まぁ、それも微々たるもの。例外中の例外だ。

 基本的に彼女が自分を主張する機会は、その大半が「他人事」である。誰かが困っている時、それを助けるために、普段の彼女からは想像できないくらいの行動力を見せる。自習時間を抜け出すことなど、平気でやってのける。校長室に直接乗り込んできたこともあった。褒められたことではないが、そんな彼女の行動が嬉しくないと言ったら嘘になる――いや、正確には、彼女「たち」と複数形にすべきだが。

「とりあえず、お前がまさる――いや、あの2人を心配してるのはよくわかった。そうでもないと、お前が廊下を走ったりなんてしないからな」

「あ…………」

 はづきが口を開く。どうやら気づいていなかったらしい。それだけ必死だったのだろう。

「……ごめんなさい」

 注意するまでもない。彼女自身が、自分の失策を充分に悔いている。だから指摘するだけに留め、話を戻した。

「気持ちはわかるけど、いつもいつも殴り合ったりしてるわけでもないし……単に張り合ってるだけだろ? もちろん、ホントにケンカでも始めたらちゃんと注意してるよ」

「でも……」

 それでも、はづきは折れない。予測できることではあった。そこで、話の展開を変えてみた。

「藤原は、あの2人のこと、どう思ってるんだ?」

「え?」

「あの2人の席が近いのはまずい、って思ったんだろ? 何でそう考えたんだ?」

「……………………それは」

 はづきは不思議そうな表情を浮かべていた。何故そんなことを聞くのかわからなかった、と読み取れる。改めて聞くまでもないはず、と表情が語っていた。そして続ける。

「……だって、2人とも、とっても仲悪そうだから」

 全てがつながった。

「藤原」

 しっかりと、教え子の眼を見据えて。

「本当に、お前にはそう見えるのか?」

「……………………え?」

 やはり関先生は、指摘するに留めていた。純粋な詰問ではなく、反語表現を使って――それくらい、目の前の優秀な教え子なら理解できるだろう――。

 わからないのなら、自分で見て、考え、理解させたほうが彼女のためだろう。

 そう思い、答えは言わずにおいた。答えを知ること、それ自体に意味はない。答えを導き出し、そしてそれをどう生かすか。そのことにこそ意味があるからだ。



 5時間目。5年2組では、藤原はづきが授業で指され、「聞いていませんでした」と謝るという、驚天動地の大事件が発生し、ちょっとした物議をかもしていた。



 冷やかそうと口を開いた佐川をハリセンの一撃で黙らせながら、あいこは言った。

「気にしすぎやて」

 相も変わらぬ不敵な微笑をもって、おんぷは言った。

「矢田くんだって、そんなに子供じゃないわよ」

 2人の言うことは理解できた。自覚もある。だが、心配は止まらない。

 もし、まさると長谷部をこのままにしておいたら。間違って大怪我でもするかもしれない。そして、再び周りから誤解され、疎外されるかもしれない。

 長谷部はさすがに知らないが、まさるについては知っている。その理由こそ異なれど、自分と同じように自己主張をしないが故に、小さい頃から誤解され続けていた。その苦い日々を、繰り返させるわけにはいかない。そして長谷部にも、味あわせたくはない。その意味で、はづきはまさるも長谷部も同じように心配していた。

 ……それは放課後のこと。どういうわけか、はづきは保健室にいた。現担任の西沢先生が、最後のホームルームですらボーッとしていた自分を心配し、そりゃあもう心配して、保健室に担ぎ上げてきたのだ。泣きながら。

 心配させた責任は自分にあるのだし、ということで、はづきは素直に保健室に留まっていた。両親への連絡は控えさせてもらったことが救いだ。これ以上、周りに心配をかけるわけにはいかない。

 それに、正直この精神状態では、MAHO堂で仕事はできそうになかった。

 椅子に腰掛けながら、やはりはづきは物思いにふけっていた。特に、関先生が言っていた言葉。自分には、まさると長谷部が仲が悪いとしか思えないことがショックだった。この前の母の日の時は、そうでもなかったのに。

(どんな理由があろうと、暴力はいけないわ)

 その頃まさるに言った言葉を、胸中で反芻する。当初こそ殴り合いという形でのケンカをしていた2人も、母の日ということで、仲良く(?)ケーキを作っていたはずだ。互いの母に贈るケーキが完成した時の、2人の笑顔。まだ、脳裏に焼き付いている。自分も本当に嬉しかった。

 でも、今は――

(どんな理由があろうと、ケンカするなんて――)

「……やっぱり心配なの? 2人のこと」

 不意にドアが開き、声がかけられる。保健室の主であるゆき先生だ。所用から戻ってきたらしい。先生たちから事情を聞いていたのだろう。

 はい、とゆっくりうなずく。そう、と返答したゆき先生は、優しげに微笑んでいた。いつものように。

「……ゆき先生?」

「フフ……あなたたちの相談を受けるのも、久しぶりだなぁ、って思って」

 そう言って、ゆき先生がはづきの前のデスクにつく。

「あなたたちの活躍はいろいろ聞いてるわ。たくさんのクラスメートを助けてるって。カウンセラーとして、大いに参考にさせてもらってるわよ」

「いえ、そんな……」

「だから私があなたたちに教えることは、もうほとんどないのかなぁ、って思ってたの」

「……………………」

「実のところ、ちょっとイタイ所を突かれてね」

 その時、突如、ゆき先生の眼鏡が光ってうなって輝きだした!!

「だから出番が少ないんだとか……彼氏がどーとか……」

「ゆ……ゆき先生?」

 髪は荒れ、白衣はずれ落ち、それでもゆき先生は愛と怒りと悲しみの怨み辛みを続ける。

「半分裸の男に……しかも結婚してるって言うし……」

「あ、あの……」

 ただならぬ雰囲気に、はづきが汗をたらしながら声をかける。と、ゆき先生が我に帰った。

「……………………いえ、ごめんなさい。今はどーでもいいことだったわね」

 いやはや全く。

「話を戻すけど……あなたたちが頑張ってるのを見てて、負けられないなぁ、って思ったの。この間まであんなに小さくて、私のところにもよく遊びに来てたのに、気がついたら私と同じような立場に立って、皆のために走り回ってるんだから。
 でも――あなたたちだって、その『みんな』と同じよね。時には迷うし、助けてもらいたい時だってある」

「…………」

「そんな時は遠慮しないで、いつでも私の所に遊びに来て。あなたたちだって、助けてもらえる立場なんだから」

「……はい」

 その言葉に、はづきは気を楽にした。自分を支えてくれる人は、ここにもいる。それがわかっただけで、張り詰めていたものが一気に消えていく。そんな暖かさが、ゆき先生にはあった。昔から。そして、これからもずっと。

「それに、そのほうが私の出番も増えるしね」

 そう付け加える。ウインクひとつして。ほんのちょっとだけ、切実な問題だとも思いつつ。


→続き<2/2>

公開日:2002年08月17日
第一次修正:2002年09月23日
第二次修正:2002年10月14日
第三次修正:2003年10月日