ここはネオホンコン。綺麗な六角柱に形作られたそのリングに張り巡らされるのは、電流だけではなかった。気合……気迫……そして、確かな殺気。
「ランバージャックデスマッチ」……もとい。「電流爆破金網時限デスマッチ」。それは完全決着を意味する。分けることは許されない、非情の戦い……己の全てを賭けて交わる、魂の拳。
少女が叫んだ。
「――私のこの手が真っ赤に燃えるっ!!」
少年も続いた。
「しょーりをつかめととどろきさけぶー」
動と静。あるいはやる気の有無。対照的な二人の死闘の幕は、今まさに降ろされようとしていた。
その鍵を握るのはやはり愛の力か? それとも……
その時。突如、黄金色に包まれた魔女見習いが飛来した!!
「ばぁくねつ! ハナちゃーん・ふぃんがー♪」
『ってお前かっ!!』
「ドッカ〜ン!!」(←ヒートエンド(技が決まった後の台詞)≠フつもりらしい……)
・オープニング:「Trust You Forever /
男はただ、そこに在った。
赤いタキシードも、青色の蝶ネクタイも。短髪、長めのもみ上げ、そして鼻下の髭も。
右目にされた眼帯すらも……全てに、意味などない。
そこがどこなのかもわからない。真っ暗なだけの背景を背負って、男は足を組み、そこに手を組んで乗せ、椅子に腰掛けていた。いや……椅子かどうかもわからない。あるいは手足すら、本当はないのかもしれない。そこに見えるもの全てに、意味などないのだから。
不意に、彼は語りだした。意味があるとすれば、その口から紡がれる言葉だけ……
「さて皆さん。工藤むつみをご存知でしょうか?
……おっと失礼。聞くまでもないことですね。
3年前の小学3年の頃、クラスの男子相手に15連勝を記録。とてもその華奢な体からは想像できない力、そして技……全てにおいて、彼女の実力は小学生離れしています。そんな彼女も今や、戦って、戦って、戦い抜いて……遂に美空小最強の座に君臨しました。
彼女のクラスメート・小竹哲也氏が、彼女の家族旅行を修行の旅と勘違いし、熊鍋を食べたことを熊を素手で打ち倒して串焼きにしたという二人の少女の話を鵜呑みにしたのも、まぁ無理からぬことでしょう……」
腕をすくめる男。しかし、あくまでも男は語りをやめない。
「そして…去る2002年4月28日。『おジャ魔女どれみドッカ〜ン!』第13話『むつみの引退宣言!』において、彼女の名は――工藤むつみの名は多くの人間に知れ渡るに至りました。少女の成長を丁寧に描いたそのテンポの良い演出から、瀬川おんぷ嬢の視聴者の度肝を抜いたきわどい行動まで……様々な魅力的な要素に満ち満ちていた名話でした。
4年の長きにわたるどれみ≠フ歴史の中でも、屈指の名作と呼んでもいいのではないでしょうか。
ですが……この話の中で、たった一言だけの台詞を以って、我々に一つの疑問を投げかけた少年がいます」
『興味ねぇ』
「彼の名は矢田まさる。工藤むつみと共に美空小最強の座を分かつ少年……そして、今日の彼女の対戦相手です。
その実力は、今更語るでもないでしょう。奇しくも工藤むつみ同様、小学3年にしてクラス中を轟かせた彼の逸話……中学生数人を打ち倒した戦いは、今なお語り継がれています。次の日、彼の顔、腕……どこを見てもその時の傷跡がなかったことからも、その潜在能力の凄さが伺えましょう。
しかしその彼は、春風どれみがいみじくも語っているように、決して『ワケもなく乱暴したりしない』のです。
その意味では、プロレスラーとなるべく純粋な強さを求め続ける工藤むつみとは、まさに好対照。
ならばその彼が、何故今回、工藤むつみに勝負を挑んだか……
どうやらその答えは、あの純白の輝きをまとった7人目のおジャ魔女が、握っているようです――それでは!」
不意に立ち上がる男。ジャケットを脱ぎ捨て、アイパッチを左手で取り去る。
そして、その左の人差し指を突きつけて――叫ぶ。
「おジャ魔女ファイト!! レディー・ゴー!!」
彼の名はストーカー。案内をすること、それ以外の全ての事象には、意味がない。
その名前にも……マイクを持つその右手の小指が立っていることにも……全てに意味はない。
彼の名はストーカー。ただ我々を、その"物語"の世界に導くだけの存在…
・タイトルコール
どれみ「『試合放棄!? 恋にドキドキ、矢田まさる』」
まさる「……誰がだ、オイ」
「えー!? なんでなんでなんでー!?」
(あー……、うるせぇなぁ)
ほとほと呆れ果てた表情で、まさるはうめいた。下校途中、捕まったのだ。
目を細めて、とぼとぼと歩いている。いつもの河原に向かって。隣の女子を無視して、歩いている。
半眼を通り越し、既に横棒と化した眼の奥で、彼は思う。3人から4人、5人……と、何故か新学期近くになってから、きちんと進級した学年の数通りに増え続けた「あのお節介な連中」は、この春「もう増えねぇだろ……」という彼の予想を大きく裏切って、6人へと増殖した。……いや、彼女たちの妹≠セという少女を加えれば7人か。彼は面識がないが。
で、その「6人目」――あるいは7人目――の少女が、しつこく言い寄ってくる。
「むつみちゃんがあんなに勝負したいって言ってるのに……」
「だからだなー」
もう説明する気もなかった。が、相手が理解してくれないのだから、選択肢は二つしかない。
無視するか。あるいは繰り返してやるか。
「俺は興味ねぇんだよ」
結局後者を選んでしまった。己の弱さに、まさるはちょっとだけ自己嫌悪してみる。
「どぉしてー!? 矢田くんいっつもそれしか言わないじゃん。ぷっぷのぷー!」
(おいおい……)
頬を膨らませてフグのようになり、口を尖らせ――どれみの真似をする少女に、まさるは心から嘆息した。
(コイツ本当に……春風のことをママ≠セと思ってんじゃねぇだろうな……?)
そんなまさるの思惑も知らず、少女はつぶやく。ある意味彼女も無視していた。まさるの意思を。
「そんなに強いのに……」
「強いったって……別に好きで強くなったわけじゃねぇし」
「じゃあなんで?」
「何でって……そりゃあ…、…………」
口ごもる。その先の言葉は…出てこなかった。
(……何でだ?)
特に考えたこともなかった。意識することもなかった……そんな疑問。
この少女は……それをズバズバと言い当ててくる。何度となく。思わず立ち止まり、己を振り返ってしまう衝動に駆られるような言動を。その意味で、彼女はあの「お節介な連中」の中でもとびきり異彩を放っていた。あの中では誰よりも純粋で……そして。
(誰よりも、子供≠ネんだ……)
小学6年とはとても思えないくらい、真っ直ぐに……彼女は育っている。あのどれみすら、彼女には及ぶまい。
明らかに、自分とは違う生き方をしていた。
と、少女は――巻機山花は、口を開いた。世界一不幸≠ネらぬ、世界一無垢≠ネ心を、何ら疑問も持たずに露出させ続けながら。
「……やっぱり、長谷部くんに勝ちたいから?」
「それはないっ」
0.3秒で即答してやった。負けたことがないからである。彼の中では。
「違うの? 修学旅行の打ち合わせの時も、しょっちゅうケンカしてたクセに……」
「あれはスキンシップだ」
今度は0.2秒だった。だからどうということもないが。
「……すきんしっぷ?」
「男同士の微妙な問題なんだよ」
「……何、それ? んー…………あ、そうか!」
一度は首を傾げたかに見えたハナだったが、突然何かを思い出し、叫ぶ。
「矢田くん、むつみちゃんがオンナノコだから戦いたくないんだー!!」
「うわわっ、大声出すなっ」
慌てて口をふさぐまさる。
「ぷはっ……だって、長谷部くんも似たようなこと言ってたし……」
「そりゃあ、そうだろうよ」
「でもいーじゃん。むつみちゃんが勝負したい、って言ってるんだから」
はぁーーっ。
もう一度、大きくため息をついてから…まさるはつぶやいた。
「……それだけじゃねぇんだよ」
「え?」
「俺にとっては、女だとか男だとか……そんな問題じゃねぇんだ。全然ないわけじゃねぇけどな」
「……………………?」
あごに手を当て、体ごと首を傾ける――この辺りの細かな仕草からして子供≠セ――ハナをやはり無視して、まさるは歩き出した。……彼女から逃げるように。
「気にすんなよ、ただの独り言だ。……じゃあな」
どれみたちに憧れて、彼女たちのような行動をとる――
それはまさに、父に憧れてトランペットを吹き始めた自分の映し鏡のように思えたからだ。
結局自分が彼女を避けているのは、彼女の中の幼さに、自分と同じものを見ているからなのだ……素直に、まさるは認めることにした。
「……で、いきなり俺かよ」
「だって、他にいないじゃない」
そう、ゴマをすってくる幼なじみに、長谷部たけしは心から嘆息した。
学校帰り、相談があるという彼女の言葉に、近所の公園のブランコに座って話を聞いていた彼だったが……その内容は、充分に予想のつくものだった。
知りたくなくとも、ハナがまさるの側で騒いでいるからである。……彼の席の真後ろで。
「矢田くんと毎日毎日、飽きることなく、年中無休でケンカしてる長谷部くんなら……」
「いや、そこまでヒドかねぇよ……」
「違うの?」
「……………………」
反論する気にもなれず――思いつかなかったらしい――、長谷部は話題を変えた。
「……大体何で今さら、あいつと勝負したいだなんて思ったんだよ」
「それは……」
立ちこぎの状態でブランコの上にいた少女は、軽く飛び降り、目を閉じて語り始めた。後ろにいる長谷部に。
「前にも話したけど……私、来週からジュニアレスリング教室に通うことになったの」
「……決まったのか? じゃ、いよいよってことだな」
思わず、表情がほころんだ。確かに以前聞いていたことではあったが、いざ本格的に動き出したとなると、自分も嬉しい。
「うん。私、絶対にプロのレスラーになりたいから……頑張ってみる」
「そっか。ま、頑張れよ」
「ありがと。それでね…やっぱりそこは、アマチュアの世界じゃない――今までの遊び≠ナのプロレスは、もう卒業しなきゃならないの」
真剣な表情で、語る彼女。目の輝きこそ失われていないが……そこには、未知への世界への不安が見えたような気もした。
だが……そこには決して失望はない。本当の意味での「卒業」という言葉を、彼女は使ったから。
ならば、もう自分が彼女にしてやれるのは、見守ることくらいだ――そう、長谷部は思っていたのだが。
「つまり――もう楽しいだけのプロレスごっこ≠ヘ終わった、ってことか?」
去年小竹に借りて、結局自分も買ってしまった某少年漫画の台詞が、つい口をついた。彼女は気づかなかったようだが。
「そういうことかな」
「……で、それがどう矢田につながってくるんだ?」
「勝負できるのは、今しかない――そういうことよ」
少女が振り返る。
「あぁ?」
「私はこれからプロを目指す……ってことは、もう遊び≠ナプロレスをすることなんてできない。だから……悔いを残したくないの。
今までの私は、本当に強かったのか……どのくらい強かったのか……それを確かめたい。それで、まだ一度も勝負したことのない矢田くんを選んだの。
勝手なお願いだとは思うけど…私が本当のプロレスの世界に入っていく前に、決着をつけておきたいの」
「……………………そっか」
頭をかいて、長谷部は困ったような、呆れたような…微妙な表情をした。
(いつまで経っても……真面目なんだよな)
小さい時、真剣にプロレスを研究していた彼女。
そして先日、対戦相手がいないこと――かつての目標であった兄も、クラスメートも、誰も彼女の相手をしてくれなかったこと――や、自分の将来等について迷っていた時すらも……真剣に悩んでいた。あくまでも真剣に。真正面から。
そのひたむきさは、あの「お節介な6人組(※現在)」にだって負けてはいないだろう。長谷部は確信していた。
「……けど、あの頑固なバカ矢田が応じるとは思えねぇけどなぁ……」
「やっぱり、そう思う? 私が女の子だから……」
「違う」
0.4秒で即答した長谷部は、そのまま断言した。
自分が「男だから」相手はできない――そう、彼女に言ったのは自分だ。それは今でも間違っていないと思っている。
だが、あのバカは違う。
「あのバカがお前と勝負したがらないのは……単純に、戦う理由がねぇからだ」
ブランコから降りて、遠くを見つめて言ってくる彼の言葉を、少女は――工藤むつみは反芻した。
「……戦う理由?」
その時であった。
「――その通りっ!!」
静寂をつんざく声が、その公園に響き渡り……
二人は絶句した。
まず奇異なのは、何よりもその覆面だろう……左から黒、赤、黄色。縦に塗り分けられたそんなマスクが、目元以外の顔の部位を全て覆っている。どっかの国旗をイメージしたデザインらしいが、どこのだかは思い出せなかった。
でもってよく見ると、頭の先から伸びているマスクの先には白いポンポンが。何故か。
ついでに言うなら、額にはVの字の触覚(?)がついていた。何故か。
深緑色のコートは……ひょっとすると軍服なのかもしれない。何故か肩についているトゲトゲを無視すれば。
背中には日本刀を担いでいた。もーここまで来ると、それくらいでは驚かないが。
総評。「誰なんだオマエは」。
「どこを見ているっ! ワタシはココだっ! ココにいるっ! Heartのど真ん中っ!」
「いや、気づいてるし」
公園の滑り台のてっぺんでふんぞり返っているその人物に、とりあえず長谷部はツッコんでやった。
「ハハハハハ!! 工藤むつみ、キサマの思うヨウにはさせんゾーっ!」
「だっ……誰っ!?」
「気づけよ、おい……」
頭を抱える長谷部も無理はない。おいおい、後頭部をよく見てみれば……覆面から髪がはみ出ていたのだ。
これ以上ないくらいわかりやすく、自己主張している。
……黄色いリングが。
そして、それで全てを納得したのも、また事実。
こんなことをヘーキでできる人間など、彼の知る限りでは彼女しかいない。
「ワタシの名は、ネオドイツの忍風戦隊ハリケン……もとい、German忍者シュバルツ・ブルゥーダァー!! 覚えておいてもらオー!
ドモン・カッ……じゃなくて、工藤むつみっ!」
「ああ、ドイツか」
「それで何の用っ!?」
その、台詞カミまくりの顔面国旗忍者(仮称)に、呼びかけない長谷部と呼びかけるむつみ。
顔面国旗忍者(仮称)は言う。
「今のオマエは、ヒトよりわずかに抜き出た己が腕にオボれているにスギないっ!
そんなザマではDevilGundamを倒すどころか、オマエの師匠MasterAsiaに勝つことスラ夢のまた夢――」
「どこの誰だよそりゃ……」
「あ、間違えた。――そんなザマでは奥山さんを倒すどころか、オマエのライバル矢田まさるに勝つことスラ……」
「いや、いーのか? 奥山イコールデビル何とかなのか? お前の中では」
「何ですって!?」
「ってお前も気づけーっ!」
声が割れんばかりに叫ぶ長谷部。が、むつみの耳には届かない。ついでに顔面国旗(仮称)にも。
「見よ、ドモン!! 己の腕がドレ程のものか……」
「ドモンじゃないんだろ……おい……」
「そこ、さっきからウルさい。静かにしてよねー」
「お前が言うなっ」
「――己の腕がドレ程のものか、この刀に尋ねるがイイっ!!」
あくまでもマイペースに、顔面国旗(仮称)は続け――そして、投げつけたのは、背中の刀だった。
むつみは何ら疑問を抱いていないのか、言葉どおりに刀に近づき……抜いてみた。と。
「サビてるけど……これ……」
「ワタシの言葉が誤りだと思うナラ、いつでも向かってコイっ!!」
「わけわかんねぇけど……とりあえずやめとけ。それは」
全てを悟った表情で、長谷部が顔面国旗(仮称)に忠告した。聞かれやしないことはわかっていたが。
「でも……ま、いっか。えーと……」
辺りを見回すむつみ。すると、草むらに都合よく――多分、あの顔面国旗(仮称)が準備したんだろう――捨ててあった、細めの丸太が目に入った。ちょっと大きめの公園にあるアスレチックを組み立てる、あれだ。
そこそこ頑丈そうなのに目をつけ、拾ってきて一言。
「長谷部くん、ちょっと持ってて」
「おぅ」
答え、長谷部は自分の腕くらいの太さのそれの左右を、しっかり腰を入れて握り締めた。しっかりと。……無論、危ないからである。
「えい」
丸太は……あっさり折れた。
ついでに刀も。
「…………あ。ご、ごめんなさい……」
本当に申し訳なさそうに、つぶやくむつみ。いつもと何も変わらぬ表情で。そして長谷部も、一言。
「……………………それで?」
「……………………」
顔面国旗(仮称)の仮面の奥に、間違いなく一筋の汗が浮かんだと、長谷部は絶対の確信を得ていた。
「……コレで勝負は決まっタ。首を落とすまでもないダロー。己の未熟さを恥じるがイイー」
「お前がな」
冷酷にツッコむ長谷部。心なしか、顔面(仮称)の声も張りがなくなっていた。
と、思いきや。
「フッフッフ……Powerだけは人一倍だナ。だがっ!!」
どうやら復活したらしい。
「オマエは子供のように目先のコトしか見てイナイ。周りの人間の気持ちナド、これっぽっちも見えちゃイナイ」
「いや、もうツッコまねぇぞ」
「ま、もっともコブシを交えなければ心を通わせるコトができぬヨーな武闘家ならば、ソレが当然なのか……」
「……どういうこと?」
「まだ気づいてねぇ……」
真剣な表情で尋ねるむつみに、長谷部はもう泣きそうになっていた。
「なっちゃイナイ……全くなっちゃイナイぞ! 工藤むつみ、キサマは矢田クンの真意がわからんのか?」
「……真意?」
先のように、むつみが反芻する。長谷部も……表情を変えた。ほんのちょっとだけ。
「矢田まさるは……決して自分のために、その拳を振るったりはシナイ」
「じゃあ、長谷部くんと年がら年中やってる無意味なケンカは?」
「physical contact……和製英語で言えば、『スキンシップ』とゆーコトだ。ダカラ何の意味もナイ」
「どいつもこいつも……」
でも、やっぱり反論できない長谷部だった。
「それはともかく。キサマと矢田まさるは、戦う場所が違う……そういうコトだ」
顔面(仮称)は語り続ける。
「GundamFighter……じゃなくて、ProfessionalWrestlerになるために強さ≠追い求めるキサマのその意思も、尊いモノだ……
しかし、矢田クンは違う。強くなりたいから、強くなったんじゃナイ……
彼は……『守りたいものがあったから』強くなったんだ」
(……そだな)
心中で、長谷部がそっとうなずいた。その言葉を、しっかりと刻みつける。
「守りたい、もの……」
むつみも、その言葉を咀嚼する。
「彼にとってのファイトとは……『守る』ことだ。『戦う』ことじゃナイ……
ダカラ……そもそも土俵が違うというワケだ。そうだナ……どうしても戦いたければ、はづきチャンでも人質にすれば……」
「……ンな恐ろしいこと、誰ができるかっ」
こっそりツッコんだ長谷部。……ちょっと、想像してしまったらしい。
「Jokeはともかく……工藤むつみ。コレでわかっただろう……」
「ええ……私、吹っ切れたわ。矢田くんの気持ちも、わかってあげないと……そうでしょ、長谷部くん?」
「ん? ああ……ま、そうだな」
曖昧にうなずく長谷部。わかってはいたことだったが、こうまであの顔面(仮称)にはっきりと断言されると、自分まで気恥ずかしい。
「……私、矢田くんのこと誤解してたみたい。ありがとう、……ええっと」
「東西南北中央不敗・SuperAsiaだ」
「って違うだろ!」
「ありがとう、東西南北中央不敗スーパーアジアさん!」
「お前もぉぉぉっっ!!」
礼を述べ、去っていくむつみに、力の限り絶叫する長谷部。でも、彼女は戻ってこない。色んな意味で。
「フッフッフ……竜虎相打つ。面白くなってきたゾ。二人の闘志が嵐を呼ぶカ……」
「……言ってること無茶苦茶だぞ、飛鳥」
「No! 今のワタシは、ネオドイツのオンナ……」
「言うと思ったぜ……」
「え? 長谷部くん、ひょっとして、この元ネタ知ってるの?」
「…………あ゛」
沈黙。
「……………………」
「……………………」
「けどあいつ、やっぱり残念そうだったよな」
「あーズルイー、話変えようとしてるー」
「うるせぇ、ちょっと知ってるだけだ! それに……大体お前、今日あの店行かなくていいのか?」
「…………う゛」
沈黙2。
「……………………」
「……………………」
「ハッハッハー!! サラバだーまた会おー!! キサマとのFightを楽しみにしてるゾー!!」
「断じて断る」
消えるようにいなく……はならず、全速力でダッシュしてその場を去った顔(仮称)の背を見ながら、長谷部は一人つぶやいていた。
「なぁ飛鳥……お前、本当に、それでいいのか?」
――しかしこの時。
彼らの会話を一部始終聞いていた、もう一人の存在に気づいていたのは……
「シュバルツ・ブルーダー」を名乗るその人だけであった。
次の日。
下駄箱に入っていた手紙に…まさるは沈黙した。
《ノーベルガンダム(バーサーカーモード)》(by 『Gガンダム』)の髪形になったハナが見たい人、手ぇ挙げて(←絶対いねぇ)。
公開日:2002年06月23日
第一次修正:2002年06月25日
第二次修正:2002年10月14日