記憶の残光 (作・FMさん)

 懐かしい夢を見た。
私がまだ”藤原はづき”だった頃の思い出が私の脳裏をかすめては消えてゆく。
苦悩、不安、憎悪、そして愛おしさで胸が張り裂けそうになる…そんな夢だった。

”あれから”十数年が経った今、皆は…

 短大を卒業したどれみちゃんは定職には就かず、結婚もせず現在は実家の家事手伝業。
そしてその傍ら、オーナーが代替わりしたMAHO堂で新しい世代の魔女見習いたちを指導している。

 何と見習いの中には女王候補のハナちゃんの姿があった。育て方が悪かったのか、だれかの遺伝なのか
ハナちゃんもよくドジを起こすらしい。ハナちゃんの偉業により、美空町には7不思議を数回書き換えな
ければならない程のオカルトトラブルが巻き起こっている。どれみちゃんがサポートしているはずなのだけれど…。

 おんぷちゃんは小学校卒業と共に芸能界を引退した。本人の話では「子供じゃなくなった私には商品価値が無くなった」
とのこと。高校卒業後彼女は皆に何も言わずに突然単身でアメリカへ飛んだ。

 その後の事はおんぷちゃんの母親から話を聞くことしか出来なかった。私たちに黙ってアメリカに渡った
事を気にして連絡をとり辛かったのだろう。彼女はハリウット女優を目指し活動を続けていらしいが、日本
でのチャイドルとしての経歴だけでは通用せず、苦しい生活をしていたそうだ。そして2年前、気丈な性格
の彼女も孤独と不安に耐え切れず麻薬に溺れ、発作的に家を飛び出して以来消息を絶ってしまう。

 その後魔女界でおんぷちゃんに似た人物を見た者がいるとか、いないとか…。

 母親の生き方に共感したももちゃんは、高校を卒業してからカメラ片手に日本を飛び出した。以来彼女は
名の知られた冒険家として世界各地をあてども無く放浪する毎日を送っている。(本人は風景写真家と言っているが…)

 時々届く手紙にはエジプト、オーストラリア、グリーンランドと渡り歩くももちゃんの写真が同封されていた。写真
には日に焼け、逞しい笑顔を浮かべる彼女は実に生き生きと映し出されている。今度3年ぶりにももちゃんが
日本に帰って来るそうなのでその日を私は心待ちにしている。

 あいちゃんは…、あいちゃんは矢田君と結婚して1児の母親になった。矢田君は気持ちを言葉に出さないけれ
どとても優しい人だから、きっとあいちゃんが隠しがちな寂しさや弱さに気付いてあげられたんだと思う。

 どれみちゃんから聞いた話だと、あいちゃんは私に遠慮して矢田君からのプロポーズを断り続けていた。結局
3年間に及ぶ彼の熱意と忍耐に折れ、そして父親から岡村あつことの再婚話を聞いて結婚を決意したそうだ。彼女
は傷つく事を覚悟して自分の口から私に告白した。
そんなあいちゃんから結婚の話を聞いた時、私は何も考えられずに…逃げ出していた彼女の前から。
それ以来あいちゃんには会っていない。

 私は親友に裏切られたショック、好きな人を奪われる憎悪、なにより自分の醜さに吐き気を覚えた。それでもあい
ちゃんは私の元に毎月必ず手紙を送ってくれる。今自分が幸せに過ごしている事、私に対して怒りを抱いていない事、
そして私を今も親友だと思っている事が記されていた。
結婚式にも顔を出さなかった私に毎月手紙を送ってくれる彼女を思い出す度、心の中で彼女を良い人と呼んでいる。

 私はといえば母が紹介した男性と結婚し、専業主婦として暮らしている。
結局母の言う事に従ってしまう楽な人生を選んでしまった、私は十数年前に見習いタップを捨ててから何も変わってい
ない生き方をしている。

 主人に不満は感じないが、退屈な毎日をおくる内に昔を懐かしむ癖がついていた。その癖に気付いた私は
不幸なのかもしれない…。

    親友と呼べる仲間たちがいた日々。

    数十年経ってもなお色褪せない眩しい毎日の思い出。

    もうあの輝かしい日々は戻らないのだろうか?

    もう二度と?

終劇

管理人の蛇足感想文


公開日:2002年07月21日