「オーホホホッ!! オーホホホッ!!」
悪の女幹部、プリンセス・ミルロの高笑いが聞こえる。
逃げ惑う人々。お兄様お兄様と泣き叫んでいるのは、黄色いモジャッとした髪型が印象的な女の子だ。
あの二人は何をやっていますの、と助けを求めている。聞いていた話と随分違い、内外面揃ってひ弱そうな印象だ。
無力なのは、その少女だけではない。
そこにいる誰もが、求めていた。現状を打破する、ヒーローを。悲劇をハッピーエンドに導き、カタルシスを与える勇者を。境界線を侵食された「わたしたち」の世界を取り戻す、英雄を。
そして、それに応える者がいた。
混乱する人の群れを、するりするりと駆け抜ける人影。
毅然とした表情で。襲い掛かる虫の化身――《ワーム》と呼称されるその怪人を鋭く睨みつけ。叫ぶ。
「わらわは〜〜〜、お主らを許さない〜〜〜」
が、叫び声だけは鋭くなかった。
地球における、平安貴族的な口調と言えるか。妙に甲高い声で、アクセントの位置が微妙におかしい。語尾が上がっている。
場違いな気の抜ける声を聞き、ノリのいい一部のワームがコケてやっていたが、それでもその少女は。あくまで真剣に。
「お主らワームは〜〜〜、わらわが全て倒す〜〜〜。倒してみせる〜〜〜」
口調を除けば真剣に。右手を掲げた。
「来い〜〜〜、ベルチャーム〜〜〜!」
少女の名は、エリザベータ。宇宙で唯一の存在《ユニバーサルプリンセス》の称号を、今手に――
「選ばれし者は、俺だ!」
「!?」
ベルチャームが、少女の手をスルーした。
飛んでいった先に、その声の主はいた。
「お主は〜〜〜――」
「今、俺はこの手で未来をつかんだ。俺はこの時を待っていた。いや、この一瞬のために生きてきた」
この宇宙、この世全ての頂点に立つと言わんばかりの、不敵な顔つきの男。そして……もう一人。
彼の隣で戦うたび生まれ変わり、頂点に限りなく近づいた男。
「カブトゼクター!」
「来い、ザビーゼクター!」
最強の天才、天道総司。
最強の凡人、加賀美新。
幾多の戦渦を共に乗り越え、固い友情で結ばれた二人。
「天使〈ゼクター〉たち! 俺たちに力を貸してくれ!」
彼らの胸元に飾られた二対のベルチャームから、カブト虫と蜂の姿をした天使が現れる。
「やめろ〜〜〜、それはわらわの〜〜〜」
『変身!』
その力を借りて、二人は《変身》した。ヒーローに。
「うわ〜〜〜!」
その衝撃に、弾き飛ばされる少女。
まばゆい光の中から現れたのは――
「輝くカブト!」
「きらめくザビー!」
『ふたりはユニバーサルプリンセス・スプラッシュ★スター!』
って長いなオイ。
「何故じゃ〜〜〜、何故変身できない〜〜〜」
悔しがるエリザベータを尻目に。
『響け、ハッピーベルン! 我らに、祝福の力を!』
カブト、ザビーが、その力を解放する。
『ワームよ、消えろ!』
恐ろしく直截的な願いが通じ、ワームは全滅した。
最後に、カブトが締める。
「おばあちゃんが言っていた。これぞ、宇宙の授けた光の……答えだ!」
……夢で良かった。
良かったのだ。
今しがた、絶叫と共に目覚めた加賀美本人にとっては。