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プロローグ

「カロリ……お前はいいよな」
「正義の味方の残りカスも燃え尽きた俺には羨ましいよ……」
 学園の第一グラウンドに、ふたり。地獄の住人、矢車想と影山瞬がたたずんでいた。肩を落とし、地べたを見つめ嘆息している。
「アニキ……俺ぐべっ」
「止められるものなら、止めてみろ!」
 影山を抜き去って走るは、ネッケツ星のプリンセス・カロリ。タックルに肘が入ってたっていうか突き飛ばしたように見えたのは気のせいだ。きっと。
「行くぞ! ファイヤー!」
 飛び上がり、上空からのシュート体制に入る。が。
「……どうせ俺なんか、シュートを止めることしか出来ない」
 その前に恐るべき跳躍力で、矢車がシュートの軌道に回り込んだ。
「ゴールを決めることすら許されない、闇のディフェンダーだ」
「何っ!?」
 そして飛び蹴りの要領で、ボールをはじき返す。真正面から。
「カロリ……お前1点を取れる、とか思ってんじゃねぇだろうな。少しでも光をつかもうなんて思うと、痛いしっぺ返しを食ら――」
「根性ですわっ!」
 と、何かグラウンドでグダグダ語ってるその隙に、駆け抜ける一陣の風。その脚力で加速し、こぼれたボールを拾い上げる。
「アスリー!」
「カロリ! もう一度よ!」
「よっしゃあ!」
 チームメイトからパスを受け取り、カロリは再びシュートを決める。決して諦めない、何度でもチャレンジする。それが彼女の信念だ。
「ラブラブファイヤー!!」
「ズ、ズバーン!」
 キーパーのズバーン、間に合わない。炎をまとった――ように見えた――ボールは、あっさりゴールネットを突き破った。どう考えても、子供の出せる威力ではないがツッコミ無用である。
「ガーッハッハッハ! ガーッハッハッハ!」
「やったわね、カロリ!」
「お前のおかげだぜ、アスリー!」
 ハイタッチし、健闘を称えあうチームメイトふたり。で、最後の一人――リオーネは。
「ズバァン……」
 ため息ついてるキーパーに駆け寄り、通訳していた。彼(?)は、地球の古代文明レムリアの遺した聖剣だ。意思を持ち、こうして人型に変形も出来る。
「ズーバズバズババ……」
「……『どうせ俺なんか』って言ってるの?」
「ズバーバ……ズババズーババーン」
「『リオーネ……お前はいいよな』? ええと……」
 何やら地獄兄弟の影響を受けてるらしいズバーン。で、当の兄弟は。
「カロリ、お前今、笑ったか? 笑いたきゃ思い切り笑えよ」
「アニキ……またやられたよ……」
「悪ぃな矢車アニキ! ガーッハッハッハ!」
「笑ったな? 今お前笑ったな?」
「アニキだと!? お前さっきから、俺のアニキに慣れ慣れしいんだよ!」
「ガーッハッハッハ!!」
「笑うなぁっ!!」
「無視するなっ! 返せ、俺のアニキ返してくれよ!!」
「…………どうしろと?」
 リオーネの真っ当なツッコミが、風に溶けた。



『レインの、学園ほのぼのニュース!』
 テレビから流れるは、宇宙中で親しまれる人気番組。
『恋――一瞬眼が合っただけで、心がふわっと温かくなったり。ドキドキして眠れない夜を過ごしたり。恋は女の子にとって、永遠の憧れよ。あ〜ステキぃ〜〜』
『あの〜、もしも〜し?』
『すっかり自分の世界に行ってしまったでプモ』
 暴走するキャスター。ADの声が漏れていた。
『……おっと、失礼しました。もうすぐホワイトデーですね、今日は学園のラブラブカップルのために、特別講師をお招きしました!』
『そうそう蒼太。恋のことなら、ボウケンジャー一の情報通の僕に聞いてよね。ボウケンブルー、最上蒼太です』
『全ての女性は花……平等に咲き誇る。花から花へと渡る風、メイクアップアーティストの風間大介です』
「何やってんだお前ら」
 音楽室で、加賀美はテレビにツッコんでいた。
 そう、ここはロイヤルワンダープラネットの、ロイヤルワンダー学園。加賀美たち仮面ライダー、そして、ボウケンジャーは再びこの学園にやって来たのだ。
 前に来た時は……確か。映士がボウケンジャーの6人目になる前で、自分がガタックになる前だったか。いや、剣にすら会ってなかった頃だ。
「加賀美くん? 休憩は終わりですよ」
「あ、すみませんウーピー先生。ちょっと昔のこと思い出しちゃって」
 あれから、随分経った。人を殺め、小さな希望や夢さえも踏みにじる、そんなワームやネイティブは、自分たち仮面ライダーの手で殲滅した。
 ボウケンジャーもまた、ゴードム文明と決着をつけ、主要なネガティブシンジケートも壊滅させたばかりだ。プレシャス自体はまだまだ存在するが、ひと段落着いたわけだ。
 一方、未来からの侵略者《イマジン》や、邪悪な拳法組織《臨獣拳アクガタ》と呼ばれる新たな敵も出現したが、それに呼応して新たな仮面ライダー、スーパー戦隊も現れたと聞いている。なら第一線から退くのも、先輩の務めだろう。
 そして――この学園も。騒動の終焉を迎えようとしている。
「前に来た時より、随分明るくなったなって」
「ええ。生徒の皆も前よりずっと生き生きしているわ」
 と、ロイヤルワンダー学園の音楽教師・ウーピー先生がうなずく。
 以前訪れた時は、校則でガチガチに固められ、競い合うのが本分、周囲は皆ライバルというピリピリした空気があった。だがそれは、過去のことだ。
 数ばかり多かった校則は整理され、自由に友達を作れるようにもなった。ブラック学園との確執も無事解決し、闇の者はなりを潜めた。
 サロンでは多くの男女が愛を語り、こうして学園ニュースで交際のアドバイスまでされるように……
「……いくら何でも、カップル多すぎじゃないですか?」
「そうかしら?」
「ああ済みません、ちょっと前、自分の高校時代を振り返りたくなるような出来事がありまして……」
 何度でも言うが高校時代、自分は野球部で甲子園にも出場した。で、前にその甲子園球場の近くの街で、とある「団」と出会ったのだが、これは別の話。
 そんな自分の青春と落差を感じたわけではない、と思いたいのだが、今の学園にはそこら中でハートマークが飛び交っていた。先月のバレンタインで、数多くのカップルが誕生したという。羨ましくなんかない、ないぞ。
「でも、悪いことじゃないわ」
「ええ。そうですよ」
「それじゃあ君も頑張らないと、さんはい」
「……あの、だからどうして俺が歌唱指導を……」
 楽しく遊び楽しく学ぶ、これが学園の本来の姿なのだ。ハッピーに満ちた学園だからこそ、学業にも励めるというものだ。ピンと張りすぎた糸はいつか切れてしまう、だからといってゆるゆる過ぎるのもどうかと思うが。いや羨ましいんじゃなくて。
「う、運命の〜〜♪」
 俺も地獄兄弟に加わる日が来るのだろうかと一人身の自分を省みながら、あまり自信のない唄を歌っていると、消すのを忘れていたテレビから悲鳴が聞こえる。え、悲鳴?
 ――この後、衝撃の展開が!
『……おーい、大丈夫?』
『何でもありません。いいですか最上蒼太、彼女たちは未だ開かぬ小さな蕾。しかし咲かぬからこその可愛らしさもあるものです。だからこのスイーツも、未熟だからこそのゲボッ』
『! 気を確かに、しっかりするんだ!!』
『ゴン……見てるかゴン……俺の命はもう風前の……風前の……』
『灯火?』
『そうそう、それそ……れ』
 何だこのコント。
『ちょ、ちょっとどういうこと? どうしましょうファイン!』
『お、おかしいな、今度はお砂糖と塩を間違えなかったはずなんだけど』
『……そこだけ合ってても意味ないでプモよ……』
 今、全宇宙に流されてるグロ画像、いやいやスイーツを口にして、大介は失神したらしい。灰色のクリームの乗ったサンマ、これは一体何だ?
 喜べ蓮華。お前以上に革命的で壊滅的な、実験的猟奇料理を作ってる奴が、ココにいたぞ。いや〜広いな〜宇宙って。
 と、ウーピー先生が番組の展開に気づく。
「……ホワイトデー用のスイーツを作ってたみたいね」
「何だ、それなら適任者が来てるってのに」
「適任者?」
「ええ。料理にかける誇りと情熱なら、『プロ以上』の奴が」
 そういえば、外でサッカーしてるのに姿が見えなかった。また厨房にでもこもっているのだろうか?
「天の道を往き」
『総てを司る』
「奴の名は」
『俺の名は』
『天道総司』
 ……って、アレ?
『おばあちゃんが……言っていた!』
「天道!? 何やってんだ天道ー!?」
 ニュースのスタジオに、突如出現した男。
 そう、彼こそは最強のライダー。
『食べ物を粗末にする奴は、ロクな大人にならないってな!』
『ひ、ひぇぇ……』
 その冷徹な怒りで、数多の悪しきワームを葬った仮面ライダーカブト、天道総司。
 だがその怒気の矛先は今、ニュースキャスターに。あのスイーツもどきを作ったふたりに。
 すなわち――ファインとレイン、ふしぎ星のふたご姫に向いていた。
 たまらず、加賀美は駆け出した。全速で。脳内に響き渡るは自分の持ち歌。運命のGATE問いかけている、Left or Right? 俺は放送室を目指す! この空の下で最強なのは、あー歌詞なんだっけ。
『いいか、お前ら』
『は、はいぃ……』
 いつだって真っ直ぐに、走れLord of the speed!
『食べ物を大事にしない奴は「禁則事項」べきなんだ!』
「何言ってんだ天道ぉぉぉ!!!!」
 丁度後奏が終わるタイミングで、飛び回し蹴りを天道にくわらせる加賀美。今全宇宙に放送に相応しくない表現が流され、かと思ったら自動的に修正された気がするが気のせいだ。
「学園の全生徒に告ぐ。俺はたるみきったお前たちを矯正する!」
 が、即座に復活した天道は、マイクを奪い宣言する。
「俺は今日から天道総司ではない、天道超学園長だ!」
「超って何だぁーっ!?」
 どこからか取り出した赤い腕章に、達筆で「超学園長」と書く天道。振り払われながら加賀美は思う、おい親父、何で今更《赤い靴》の暴走装置が、変身もしてない天道に機能してるんだ?
 双方の父親に人類の未来を託された二人の取っ組み合いは、決着の前に「しばらくお待ちください」の画面に隠された。



「…………フッ。ちょっとした冒険だな?」
「チーフ、誤魔化さないで下さい」
「天道さん、本気で怒っちゃった」
「くだらねぇ」
 空き教室で、放送事故を見終わったボウケンジャー一行。明石、さくら、菜月、真墨は、揃ってため息をついた。
「全くだ。野菜に調味料なんて必要ねぇ、丸かじりに限るぜ」
 映士にツッコむ気力もない。あとは蒼太が無事帰ってくることだけを望むだけだ。
「ったく、ミッションはこれからだってのに……?」
 ぼやく真墨。と、教室のドアが開いた。そこに現れたのは。
「まさかこんなところで、君たちと再会するとはね」
「あんたは!?」
「挨拶が遅れてすまなかったね」
 答えて、映士に笑顔を見せる。自分の前髪に触れ、
「ヒカルンルン!」
「……その呼び方はやめてくれないかな?」
 菜月の言葉に、ちょっとだけつんのめる。

 ヒカル。
 魔法戦隊マジレンジャーの、マジシャイン。またの名はサンジェル。
 マジトピアの天空聖者であり、マジレンジャーたちの先生でもある。

 そして――ボウケンジャーと共に戦った、先輩戦隊の一人でもあった。


update : 2007.06.06
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