「美しく、きららに輝く、君こそは！　我が友、エリィ・ザ・ベータ！」
「坊ちゃま…………」
　ロイヤルワンダー学園前駅にて。
「俺たちの絆は――ショ・ミーンと質素の心を知った俺たちのノブレス・オブリージュは、永遠に不滅だ！」
「坊ちゃま……」
　剣と、エリザベータが、最後の挨拶をしていた。
「……………………いや、違うな」
　誰に言われるまでもなく。剣は、首を振ると。
「姉さんによく言われた、お前は無神経だって。だが今の俺は違う」
　片膝をつき、エリザベータの肩をつかみ、瞳を優しく覗き込んで。
　剣はきっぱりと言った。
「俺には、ミサキーヌという、掛け替えのない恋人がいる」
　大きな瞳が揺らぐも、逃げない。剣は、現実と向き合うことにおいても頂点に立つのだ。
「そして俺は、神代家復興という使命を果たさねばならない。今もミサキーヌと共に『ディスカビル・コーポレーション』という会社を設立するため、資金稼ぎに精を出す毎日だ。『ジェット便』というバイク便のアルバイトから、立ち食い蕎麦屋。こうしてボウケンジャーの手伝いもするし、大忙しだ。
　だから俺は帰らねばならない。我らの愛したじいやの味をコンセプトとしたレストランを経営し、必ずや、我が神代家を立て直してみせる。その時は――」
　胸ポケットから、白いハンカチを右手で引き抜き。
「君も、立派なクィーンになってくれ。プリンセス・エリザベータ――」
　左手で優しく手に取った、彼女の右掌に差し出した。

　宇宙用の改造を施されたゴーゴーボイジャーの、ギアが入る。
　慌てて駆け出す剣。が、振り返る。後ろ向きで走りながら、
「いやいや待て、遊びに来るなら自由だぞエリザベータ！　時間が空いたならいつでも来い、我がディスカビル・コーポレーションが心から歓迎する！
　その時は地球で、ノブレス・オブリージュの絆で結ばれた友も紹介しよう！　めがっさにょろの頂点に立つ女に、ウサミミの頂点に立つ男。知性の青き泉において頂点に立つ女に……」
　そして乗り込む寸前、最後に、こう言った。
「愛する友よ、また会おう！」



「…………おい」
　ゴーゴーボイジャーが飛び去り、完全に見えなくなった辺りで――
　ぴくりとも動いていなかったエリザベータを、ファンゴが呼ぶ。
「おい！」
「っ!?　な、何じゃ〜〜〜!?!?」
「…………。ほらよ」
　ファンゴの右手にあったのは、きれいにラッピングされた、小さな箱。
「こ、これは〜〜〜」
「ホ、ホワイトデーのお返しだ」
　ちらちら視線を逸らしながら、ファンゴが言葉を少しずつ紡いでいく。
「お前はお前独りで、納得行くまで、……チョコ作ったんだろ。だったら俺も独りで、納得いくまで探したかった」
「…………」
「け、けどさっぱりわからず迷ってたら、あいつにお節介焼かれて――その礼もして。でも最後は、自分独りで選んでだな……」
「ファンゴ…………」
　そっと。エリザベータが、プレゼントに手を伸ば――
「待て」
　そうとしたら、ファンゴが引っ込めた。
「な、何をするのじゃ〜〜〜!?」
「その前に聞くことがある。……さっきのあいつは、結局誰だったんだよ」
「！　ぶ、無礼者〜〜〜！　坊ちゃまをあいつ呼ばわりとは〜〜〜」
「……その『坊ちゃま』って呼び方からしてヘンだがな。で、結局お前の坊ちゃまとやらは、お前の何だったんだよ」
「!?　そ、そそそそそれは〜〜〜!?!?」
　眼を丸くするエリザベータに、ファンゴはますます語気を強める。
「いきなり現れて、お前と好き勝手やられて、こっちは迷惑だったんだ。ただでさえ危なっかしいお前が、とうとうヘンな奴に騙されたんじゃないかと冷や冷や……」
「そ、それ以上の坊ちゃまへの侮辱は許さぬ〜〜〜！　許さぬぞファンゴ〜〜〜!?」
「うるせぇよ。こっちが必死にお返し考えてる時にうろちょろされて――」



　ねぇ大丈夫かなあの二人、と赤髪の妹が戸惑っていた。
　はいはいツンデレツンデレ、と青髪の姉が嘆息していた。
　ふしぎふしぎ〜、もうエリザベータが元気になった、と小さな生徒会長が眼を輝かせる。
　チームセレブのふたりの炎上は徹底的にクライマックスになり、それを三人がかりで押し留めるチームサンバ。
　三人揃って、大きく肩を落とすチームフラン。
　とりあえずえぐえぐ泣いたら、他にすることないんかと芸人少女にツッコまれたバイオリニスト。



「あ、おいコラ返せ、俺の話はまだ終わって……」
　そして彼女は、右手の白いハンカチで、丁寧にファンゴのプレゼントをつかみ。
「ファ、ファンゴのために〜〜〜」
「ああ？」
「別にファンゴのために受け取るんじゃないんだからの〜〜〜♪」
　と、笑って駆け出した。





　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　ＦＩＮ