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第五章

「ありがとうございます。こちら、彼女さんへのラッピングでよろしいですか?」
「そ、そんなんじゃ…………、でも、その」
「ラッピングですね、かしこまりました。……頑張ってくださいね!」
「…………ぉ、おぅ」
 お節介な店員に、ぶっきらぼうに礼を言い、少年は独り走り出した。
 彼のミッションを果たし。彼の往くべき道を経て。
(……待ってろよ)
 ファンゴは、彼女の目指す道へと向かった。



「今のあんたたちが、私に勝てるとでも?」
 メグの憎しみが、アンハッピーフラワーをさらに巨大化させていく。
「最強のライダーは仲間割れで相討ち、最強の冒険者も自ら巻き込まれて行方不明! 残されたあんたたちには――」
「奴らは必ず来る! それが、我が友だ!」
 闇の触手を、サソードはオレンジのチューブで――《ブラッドベセル》で絡み取る。
 マスクドフォームが持つ、隠し武装だ。
「とも……」
「だち……?」
 ファイン、レインがつぶやく。そう、剣は今、彼らを友と――
 剣は答える。彼がたどりついた答えに。
「加賀美は、助け合える親友〈とも〉。天道は、競い合える強敵〈とも〉。俺にも、そういうことが、わかってきたんだよ……!」
「坊ちゃま…………」
 エリザベータに力強くうなずいて、剣は叫ぶ。
「待っているぞ――我が友よ!」



 その時――



 緑の里――地球は滅び。
 宇宙さえも滅びの力に飲み込まれようとしていた。
「力を合わせれば何とかなると思ってますか?」
 諸悪の根源、ゴーヤーンが問いかける。ダークフォール最凶の戦士が。
「無駄ですよ、私に勝てるわけありません」
 ふたりの伝説の戦士を踏みつけ、言い募る。
「昔、世界は暗黒だった。しかしある時変化が起こり、多くの星々が産まれた。星々からはやがて命が産まれ、増え続けた。
 そして、世界はどんどんやかましく不安定になっていきました。
 だから私が全てを滅ぼし元通りにするのです。静かな暗黒、永遠の滅びの世界にね」
「何を、わけのわからないことを言ってるの?」
 それに抗うは、大地の精霊の加護を受けし戦士《キュアブルーム》、日向咲。
「そんなことは」
 大空の精霊の加護を受けし戦士《キュアイーグレット》、美翔舞。
 そう、ふたりこそ――いや、ふたりだけではない。彼女たちが戦いの中で衝突し、そして分かり合った、ふたりの仲間。霧生満。霧生薫。
「私たちがさせない!」
 花が咲き、鳥は舞う。風が薫り、月は満ちる。
 命の輝きに溢れた、この世界を守る四人。
 伝説の戦士――プリキュア。
「……残念ですが、これでお前たちとは、永遠にさよならです!」



 ――おばあちゃんが言っていた――



「何故です、何故立ち上がるのです。いくら立ち上がっても無駄なのに!!」

 ――昔、世界は命の存在しない暗黒だった――

「月の力!」
「風の力!」
「大地の力!」
「大空の力!」
「精霊の光よ!」
「命の輝きよ!」
「希望へ導け!」
「全ての心!」

 ――しかし、命が産まれ、星となって……――

「愚かな! もはや私には何も通用しない!!」

『プリキュア・スパイラルハート・スプラッシュスター!!!!』

 ――暗い宇宙の中で、お互いを照らし出した――

「私の滅びの力は無限!! いくらでも湧いてきます、お前たちが勝てる可能性は万に一つもなぁい!!」
「ゴーヤーン、確かにあんたは強い! でもどんなに強い滅びの力でも、絶対に消せないものがある!」
「私たちの心から、希望を消すことは出来ないわ!」
「私たちの未来を!」
「皆の希望を!」
『あなたには絶対渡さない!!!!』

 ――そんな星たちのように、俺たちは互いを大切に思う心で、照らし合って輝いているってな――

「こ、これは何だ!? この輝きは……これは、まるで……」

「そうだゴーヤーン」

 その時奇跡が起こった。

『へ?』

 その輝きの中から、何者かが姿を見せたのだ……



「その最初の命こそが俺! 天の道を往き、総てを司る俺こそが――
 人類の、おばあちゃんだ!」



『えーーーっっ!?!?!?!?!?』
「なら俺はおじいちゃんだ天道おおおおおおおおおお!!!!!!」
『ええーーーっっ!?!?!?!?!?』
 続けて現れたガタックに、絶叫しっぱなしの一同であった。
 両者はもつれ合いながら、拳をぶつけ合っている。咲と舞には、単なる子供の喧嘩に見えたが。
「天道総司こそ響き合う命の輝き、スプラッシュスターか。ちょっとした冒険だな」
「意味がわかりません明石さん」
 で、最後にひょっこり現れたボウケンレッドにツッコむ咲。
「邪魔したな、プリキュアの皆。どうぞ続きを」
 自分たちと同じ時代を、共に戦った仲間に会釈して。レッドは去っていった。
 どう去って行ったかはさっぱりだが、とりあえず三人とも次元の向こうに消えた。
 で、プリキュア4人が残される。最終決戦を見事にぶった切られ、呆然と立ち尽くす伝説の戦士が。
 ……迷った挙句、まとめ役の舞が切り出した。
「え、えっと……そうよ、キリのいいところからやり直しましょう。ねぇ咲?」
「ああああたしから!?」
 というわけで、咲はとりあえず記憶を巻き戻してみた。
「あ、あああーー、あたしは来年こそソフトボールの試合で優勝して」
「そこから!?」
「私はメロンパン焼きたい」
「……みのり描きたい」
『直球だぁーっ!?』



 さてここで問題なのは、この最終決戦が行なわれた時間軸だ。
 何故か例年のことなのだが、カブトたち仮面ライダーがラストバトルを繰り広げた一週間後、プリキュアのラストバトルは行なわれている。
 そしてボウケンジャーのラストバトル――正確には、ゴードム文明と決着をつけて一段落したのは、その二週間後だ。
 つまり、カブトとガタックは、ハイパークロックアップを暴走させながら時間遡行し、プリキュアのラストバトルに割り込んだのだ。
 時の旅人、カブトとガタック。次に現れるのは、過去か未来か――



「カブト、この世界を頼ウボァー」
 さっきの一週間前だった。
 即ちカブトのラストバトルにて。今まさに擬態・天道総司が、自らの仇、ネイティブの根岸を巻き込んで自爆しようとしたところだった。が。
 その時不思議なことが起こった! 突如飛来した赤と青の影が、擬態天道だけ突き飛ばして、そのまま消えていったのだ!
「…………あれ?」
「てっててててて!? 天道!? 助かったのかお前、良かったってってててでででも今のは」
 何故か助かり、呆ける擬態天道に、混乱しながら駆け寄る加賀美。
 そして天道は、二つの影が消えていったほうを見つめながら……
「フッ、そういうことか」
『どういうことだ』
 ある意味どちらも天道と対になっている、二人のツッコミがカブった。



 そして今度は、さらに二週間前。
「ひどい熱だな」
「どってことないよ。それより――」
 影山が兄に差し出したのは、銀色のネックレスだった。
 悪しきネイティブの陰謀で製造された、人類全てをネイティブ化させるツール。
 その影響は、それを複数つけている影山に最も早く――
「アニキの分も貰ってきウボァー」
 その時不思議なことが起こった! 突如飛来した赤と青の影が地獄弟を吹き飛ばし、その余波でネックレス3つが粉々に破壊されたのだ!
「ああっ、俺たち兄弟のネックレスがー!」
「いらねぇよ。それより見ろ、俺たちにもつかめる光がある。一緒に行こう、真夜中の太陽を求めて。白夜の世界へ――」
 ここまで言って、矢車はようやく気づいた。弟に見せようとした白夜の写真も、さっきの余波で吹き飛んでしまったことに。



「なあああああんじゃそりゃあああああ!!!!」
 時の列車《デンライナー》の出入口から、モモタロスが絶叫してツッコむ。
「すげー、グニャグニャだ! ワキワキでグニャグニャだ!」
「…………やりたい放題ね、あいつら」
 はしゃぐ《ゲキレッド》漢堂ジャンをよそに、ハナが頭を抱える。
 彼らの目の前では、女性を襲うスコルピオワームを赤と青の影が――カブトとガタックがブッ飛ばしていた。結果、あの女性は救われたというわけだ。
 そう、あの女性はここで命を落とすはずだった。それが、正しい時の運行だ。
 時の運行を守るデンライナーの戦士《仮面ライダー電王》が、決して見過ごしてはならない暴挙なのだ。
「そう、こんなことは二度とあってはならない――はず、なのですが」
 杖を突きながら、デンライナーのオーナーが会話に加わる。
「実は……あの天道総司は、以前からずっと、時の運行を乱しています……そう、加賀美新がキャマラスワームに殺された時も、時を遡ってなかったことにしました。
 しかし、そこで加賀美新がこの世から去っていたら、世界は悪しきワームに征服され、こうして良太郎くんが電王になることもなかったでしょう」
 天道とて人の子。旧姓・日下部の家の妹、ひよりのことにかけては、天の道を外れることもある。
 それを元の道に引き戻したのが、加賀美だった。加賀美なくして、天道は天の道を往くことは出来なかったろう。それもまた、彼に望まれて味方した運命のひとつ、かもしれないが。
「よくわからないけど……」
 と、名を呼ばれた野上良太郎――《仮面ライダー電王》が、おずおずと口を開く。
「カブトがいたから、僕たちはココにいるってこと?」
「そのようですねぇ」
 うなずくオーナー。が、その表情は複雑そうだ。
「でも、それって変じゃない?」
「時を乱した結果、時の運行が守られたのか……それとも……」
《ゲキイエロー》宇崎ラン、《ゲキブルー》深見レツが、一同の疑問を代弁する。
 オーナーも同意見のようだ。それ故に声を荒げ――
「そう、ヘンです……だから、時の運行を変えてはならない! このようなことは、これっきりに――」
「ねーねー何の話?」
「今大事なトコなんだから出てくんな夢女ぁ!」
 ようと思ったら、一人の少女に割り込まれた。赤い髪の少女を、食堂車に追い返すモモタロス。
「何よ、モモちゃんのケチー。あ、りんちゃん、それあたしのチャーハン!」
「まだ食う気かお前ら!? あーいいから大人しくしてろ!」
 無理矢理食堂車に押し込み、勢いよくドアを閉めるモモタロス。激しく息継ぎしてる彼を完全に無視して、ハナは言う。外の様子を睥睨しながら。
「もし……こんなことが続くのなら。いつか、あいつらとも戦わなきゃならないかも」
 外では、駆けつけた男が、姉さんと呼びかけながら倒れた女性を抱きかかえている。弟は叫ぶ、姉を傷つけたワームは許せん、全てのワームは俺が倒すと。神に代わって剣を振るうと――
「おぅ、俺はいつでもいいぜ!」
 そんな外の様子には、もう興味ないらしい。モモタロスが拳を握り締めた。
「俺ァいっぺんライダーバトルってのをやってみたかったんだ。あんなカブト虫野郎、俺と良太郎にかかればウボァー!!」
「あんたが大人しくしなさいバカモモ!!」
 今にも暴れ出しそうだったモモタロスを、鉄拳で黙らせるハナ。彼が良太郎に憑依した電王の協力者の一人とはいえ、未来からの侵略者《イマジン》であることは変わりない。そのわだかまりがハナから消えるのは、相当の時の流れを費やすことだろう。
「……でも、どうせなら」
 それを知りながらも、良太郎は言う。
「いつか、あんな風に、カブトと肩を並べて戦いたいな。同じ仮面ライダーとして……」

 獣拳戦隊ゲキレンジャー。
 仮面ライダー電王。
 そして、新たなる伝説の戦士……
 次世代のヒーローたちの戦いは、まだ始まったばかりだ。



 ……だからこそ。
 ここで終わらせるわけが、ないのである。



「! ヒカル先生、あれは!」
「あれは! 矢的先生が追っていた《円盤生物ロベルガー》! これもマイナスエネルギーの影響で出現したのか……」
 ウーピー先生に解説するヒカル。学園の頭上では、メグの乗っていた円盤型怪重機が変形。物理法則を無視して巨大化・怪獣化し、グラウンドに降り立った。
「ウーピー先生、生徒たちを頼みます! 天空変身――」



『剣さん!』
「坊ちゃまぁ!」
「ぐっ……貴様!」
「ウフフフフ……! さぁ、これで終わりよ。この宇宙に、本当の真実を流してあげるわ。この私の番組――」

『おばあちゃんが言っていた』

『へ?』
 モニターにドアップで映った、どこかで見た顔を見て眼を丸くする一同。ただし、剣を除いて。
「……フッ、そろそろ来ると思っていたぞ、我が強敵〈ライバル〉よ!」
 そう――
 光は探している、厚い雲の間輝く者を。
 彼だけが、選ばれし者なのだ。
『全宇宙で覚えておかなければならない名前はただ一つ』
 彼女が歩き出した道に、想像していた未来などない。
『天の道を往き、総てを司る――』
 他者のために自分を変え、世界も変える。それが彼の道。
『天道、総司』



 その自己紹介は、本当に全宇宙に流された。
 ふしぎ星は勿論、宇宙警備隊を擁する光の国、宇宙警察本部。
 ワシ座星系ビオード星や、宇宙を漂う海賊船、ガマ星雲第58番惑星ケロン星……
 そして何故か、地球の日本国兵庫県某市の県立北高校の、世界を大いに盛り上げるためのS.Hさん(仮名)の団が仮住まいする文芸部部室には、特に念入りに放送された。
 その様を見届けて、ヒカルは天空ケータイ《グリップフォン》を下ろした。
「……ヒカル先生?」
「僕の授業は必要ないようです、ウーピー先生。避難を急がせましょう」
 後は頼んだよ、後輩ヒーローたち。



『えええーーーっっ!?!?!?!?!?』
 ハイパークロックアップで電波ジャックを敢行した天道に、剣以外の全員が絶叫する。
 その隙を突いてのことだった。
『うぉらぁぁああだっしゃあああぁぁぁ!!!!』
 ようやく放送室にたどり着いたファンゴと、シャシャとカーラのトリプルライダー(?)キックが、香水瓶ごとメグを蹴り飛ばすのは。



「恋終わりし女に花一輪、その花と共に天に昇るがいい」
 大きくフッ飛び、第一グラウンドに放り出されたメグが立ち上がると、目の前には作務衣姿の天道が立っていた。
 香水瓶――《マジック・ポーション》に刺さるは、一本の赤い薔薇。
「……お前、いつ着替えたんだよ」
 傍らには、傷だらけでボロボロの加賀美の姿があった。天道の相手に疲れぐったりしている、まぁいつものことだ。
 そこに駆けつける、ボウケンジャー一行。
「加賀美! 明石もようやく来たか、何してやがった」
「天地開闢の瞬間に立ち会った。ちょっとした冒険だったな」
「あー、そーかよ」
「何だその顔は真墨、他にも色々見てきたんだぞ!? 恐竜時代の終焉に起こった伝説も目撃した、彗星とゲッター線がいっぺんに襲来した最中に、地下に正方形型の聖域を造って恐竜たちを逃がした青い狸――」
「で、その間天道と加賀美はどうしてたんだ」
「噴火する火山で、脇目も振らず戦っていた。俺はしきりに誘っていたんだがな、あれほどの冒険を前にして何を考えてるんだ? そうそう、三万年前光の国で起こった大戦争の最後の決闘の真横で、旗倒し勝負を始めた時はこのボウケンレッドも――」
「もういい。お前の冒険バカのほうがよっぽど深刻だ」
 こちらも無傷な明石に、真墨が肩を落とした。明石の相手に疲れぐったりしている、まぁいつものことだ。
 彼らの頭上には、《円盤生物ロベルガーIII世》がそびえ立っている。メグは無言で、薔薇を忌々しそうに放り投げ、姿を香水瓶に戻す。それはふわりと飛び、ロベルガーIII世の頭部に吸収された。
 無数の小型円盤も再び出撃し、頭部では巨大なアンハッピーフラワーが口を開ける。
 どうやら、あれを倒さねば任務完了とはいかないらしい。
「ミッション再開だ! プレシャスを回収する」
「いいだろう……」
 明石が高らかに宣言し、天道もうなずく。
 と――
「天道!」
 剣と共に、エリザベータたちが現れる。
『……………………』
 だが天道が見ていたのは、その後ろのふたご姫だ。
 ファイン、レインは、天道の前まで駆け寄ると。
 何も言わずに、ハッピーベルンを突き出した。
「ピュピュ!」
「キュキュ!」
 小さく鳴ったベルの音に呼ばれ、天使たちが飛来する。
「……………………」
 そしてプーモもまた、天使たちと共に。静かに、ふたご姫を見守っていた。
「……………………」
 天道はただ、見下ろすだけだ。ふたりの子供を。
 赤と青の瞳も、天の道を往く者を見上げている。
 過去現在未来、全ての時を照らす太陽。
 宇宙で唯一の存在、天道総司。
 かつて《太陽の紅炎〈プロミネンス〉》を操った、ふしぎ星・おひさまの国のプリンセス。
 宇宙で唯一の存在、グランドユニバーサルプリンセス。
「……往くぞ、天道」
 そう呼びかけて、剣が戦列に加わる。12人の、ヒーローたちの側に。
『……………………』
 丁寧に、一礼して。ふたご姫も走る。学園の友達、仲間たちのほうへ――
「待て」
 折れたのは、天道だった。
 振り返ったふたご姫に、一つ尋ねる。
「お前たちはスイカを食べる時、塩を使うか?」
『…………?』
「人間の舌の神経は、甘みより先に辛さが伝わる。スイカに塩をかけると、先に塩辛さを感じ、結果としてスイカの甘みを引き立たせることになる」
 語りつつ、懐から何やら取り出す天道。
「……そういえば、俺の後輩の仲間に、お粥に羊羹を入れようとした奴がいた。発想自体は陳腐だが、あり得ないやり方ではない。カレーの隠し味のチョコやコーヒーは有名な話だ、分量次第で相反するものも共存できる」
 それは、「超学園長」の赤い腕章だった。
「無論、基礎を固めてこそ出来る応用だが――」
 それを右袖にくくりつけ、宣言する。
「甘くするだけがスイーツじゃない。あと1000年は修行しろ!」
『はい!』
 生徒は、勢いよく答え。再び駆け出した。
 笑顔で。
「…………誰かさんが言ってたぜ?」
 苦笑しながら、加賀美がつぶやいた。ふたご姫のほうを振り返ることなく。
「同じ道を往くのは、ただの仲間に過ぎない。別々の道を共に立って往けるのが、友達だ――ってな」
 聞こえただろうか、いや、聞こえなくてもいいだろう。
 彼女たちには、とっくに解っていることだ。

 ふたご姫を背に。
 ふたご姫と背中合わせに。
 12人は一列に並ぶ。

『変身!』
「レディ!」
『ボウケンジャー!』
「ゴーゴーチェンジャー!」
『スタートアップ!』

「熱き冒険者、ボウケンレッド!」
「迅き冒険者、ボウケンブラック!」
「高き冒険者、ボウケンブルー!」
「強き冒険者、ボウケンイエロー!」
「深き冒険者、ボウケンピンク!」
「眩き冒険者、ボウケンシルバー!」
「天の道を往き、総てを司る。仮面ライダーカブト」
「俺の道を往き、ひたすら前に突っ走る! 仮面ライダーガタック!」
「風の道を往き、花から花へと渡る。仮面ライダードレイク」
「高貴なる道を往き、神に代わって剣を振るう! 仮面ライダーサソード!」
「地獄の道を往き、地べたを這いずり回る。仮面ライダーキックホッパー」
「白夜の道を往き、俺たちだけの光を求める! 仮面ライダーパンチホッパー!」

『果て無きヒーロースピリッツ!!』
『我ら無敵の12人!!』



「お前が恋を教えるなど千億年早い」
「ボイジャー、アンロック!」

 カブトがハイパーゼクターを呼び出し、ボウケンジャー最強の戦艦・ゴーゴーボイジャーが発進する最中。
「ファイン……レイン……。わらわは……」
「分かってるよ、エリザベータ」
「私たちはヒーローじゃないし、守るのは正義じゃないわ」
『だから』
「ああ。皆で往こうぜ!」
 カロリもうなずく。友達と、仲間と共に。

「ハイパーキャストオフ」
《HYPER CAST OFF》
『超絶轟轟合体!!』
《合体シフトON!》
《コマンダー、キャリアー、ファイター、アタッカー、ローダー!》
《ボイジャーフォーメーション!》

 太陽の輝きはさらに増し、轟音と共に冒険者も合体する。
 だがその光も、音も。子供たちには届かない。
『天使たち! 力を貸して!』
 届くのは、友の切なる願い。無垢なる光。
「ピュピュー!!」
「キュキュー!!」

《CHANGE HYPER BEETLE》
『ダイボイジャー合体完了! ファーストギア・イン!』

「愛と勇気を守るレイン!」
「夢と希望を守るファイン!」
『グランドユニバーサルプリンセス!!』

「へぇ、こっちの変身もなかなかの冒険だな」
「ってあんた何やってんの!?」
 しみじみと、ふたご姫のドレスアップを見守っていたシルバーにツッコむビビン。
「……仕方ねぇだろ、ダイボイジャーには俺様の居場所がねぇんだ。この間も菜月に邪魔って言われたし」
「うわ、切なっ」
「お前も苦労してるんだな……」
 思わず同情するビビン、エドちん。確かにダイボイジャーは五体合体であり、サイレンビルダーとの互換性は皆無。アルティメットダイボウケンのように、装備の交換すら出来ないのであった。
「おっと、俺様は俺様の好きにやってるだけだ。別に味噌っかすにされてるわけじゃねぇぜ、どっかの弟じゃあるまいし」
「どうせ俺なんかああああぁぁぁぁ!!!!」
 パンチホッパーがいつも以上に暴れているが、全員無視。
「忘れたか? 俺様はサージェスレスキューだ!」
《合体シフトON!》
《ファイヤー、エイダー、ポリス!》
《サイレンフォーメーション!》
「サイレンビルダー合体完了! ファーストギア・イン!」
「……あんた」
 ビビンが見上げる。正義の味方のロボットを。
「単独でのレスキュー活動。それが俺様の冒険だ! 好きなだけ援護してやるぜ、ユニバーサルプリンセス!!」
『――はい!!』
 そしてビビンに、生徒たちに呼びかける。
「お前らもだ! 俺様について来やがれ!」



 ロベルガーIII世が両腕から連続発射する、くさび型光弾をかいくぐり。
 小型円盤を撃ち落し、蹴り飛ばして、ライダーが迫る。
《RIDER CUTTING》
「ぉぉおおおりゃああああああ!!」
《RIDER SLASH》
「うぉぉぉおおおぁぁぁあああ!!」
 空翔るバイク《ガタックエクステンダー・エクスモード》に乗ったガタック、サソードが飛び上がる。ガタックが投げたダブルカリバーが、ライダーカッティングの斬撃と交差し、頭部へ直撃する。
 相手が怯んだ隙に迫るは、ダイボイジャー。鈍重だが、想像を絶する一撃を食らわせる。
『アドベンチャーダブルスクリュー!!』
 両腕のローラーが大回転し、連続パンチを放つ。
 たまらず崩れ落ちるロベルガーIII世。
「今だ! 行くぞズバーン! ……ズバーン!? って待て、まさかお前さっきの名乗りに参加できなかったことを――すまない悪かった謝ろう、このボウケンレッドが! 機嫌を直してくれズバーン! 最後に『12人!』と決めたのは昨年の――」
「……? ファイン、レイン?」
 何やらもめてるレッドをよそに、ダイボイジャーの右肩に飛び乗るハイパーカブト。
 視線の先は、サイレンビルダーの掌の上。
『奏でよ、ハッピーベルン!』
 映士に守られる中で、ふたご姫が祝福の力を使おうと――
『我らに光と、翼を!』
「ほぉ……そういうことか」
 総てを察する天道。
「よし、往って来い! ダブルウォーターシュート!」
 ジェットカノンから水流を発射して小型円盤を蹴散らす、映士の援護を受け。
 翼を得たグランドユニバーサルプリンセスが、空高く舞い上がる。
『あんたたちも…………私から奪おうってのね…………』
 満身創痍の機体の中で、《マジック・ポーション》が呻く。
『その祝福の力で、「ブラックアクセサリーよ消えろ」と願いをかけて』
 最後の巨大アンハッピーフラワーを伸ばし、奴らのハッピーを奪おうと迫る。
『私を拒絶して、破壊――』
 その時――メグは見た。

「……やっぱり私じゃ、助けられないみたいだから」
「あんたも、フランが認めた相手なんだからね」
「しっかりやらなきゃ承知しないわ」
 チームフランの三人。

「お願い……僕にも、聞こえたから!」
「お優しいエリザベータ様なら、きっと!」
「麗しきエリザベータ様なら、絶対に!」
 ノーチェ。シャシャ、カーラ。

「……………………見せてやれ」
 そして、ファンゴが叫ぶ。
「お前が学んだってのを……ノブレス・オブリージュを!!」

 無言のまま、グランドユニバーサルプリンセスに支えられ。
 メグのもとへ、ゆっくり上昇していく、恋のキューピッドに。
 高貴なる道を往く、プリンセス・エリザベータに。

「往っけぇぇぇっっっ!!!!」
「だだだだからぼぼぼ僕を投げるなあああ!!!!」
 エドちんの尻尾を振り回して、巨大アンハッピーフラワーを牽制するビビン。
「……いいんだなカロリ! 俺は容赦しないぞ!?」
「心配するな相棒……こいつも俺たちの兄妹だ」
 一方地獄兄弟は、寝転びながらカロリを持ち上げている。キックホッパーは左足底、パンチホッパーは右拳をカロリの足底に突きつけ、その上に乗ったカロリが腰を落とし立っている格好だ。
「ああ、思いっ切りやってくれアニキ!」
「ってやっぱり俺無視したな!? ああわかったよお前がそのつもりなら全力で――」
「ちょっと下……そうそう、もうちょっと右!」
 地獄兄弟次男を放置して、頭をフル回転させながら、シフォンが角度調整を行なう。
「――そこっ!」
『ライダージャンプ!!』
 地獄兄妹の心が、一つになった。
《RIDER JUMP》
「おりゃあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」
 ジャンプ力を増強させるアンカージャッキの衝撃が、そのままカロリの脚に伝わり、空高く撃ち上げられた。上空のロベルガーIII世の頭部に向かって。
 ユニバーサルプリンセスを食らわんと迫る、アンハッピーフラワー目指して。
「……行くわよ、カロリ!!」
 アスリーが全力疾走し、ロベルガーIII世の脚を垂直に駆け上がる。
「カロリーッッ!!」
 リオーネがあらんばかりの力で、ボールをアスリー目掛けてサーブする。
「根性ぉぉぉぉ!!!!」
 脚を蹴り、空に飛び出したアスリーが、ボールをカロリ目掛けてボレーシュートする。
 チームサンバの三つの心もまた、一つになった。
「スカイ!! ラブラァブッ!!!!」
 大切な友達。憧れの兄。
 全ての思いを受け止め、カロリは中空で脚を振り上げた。
「ファイヤァァァアアア!!!!!!」
 ボールに炎が灯る、摩擦熱だ。シフォンはそう結論付けた。あの勢いなら火の付く確率は200%だと、数学的なようなそうでないような計算をして。
 炎のシュートが、巨大アンハッピーフラワーに直撃。爆炎を上げる。
「今だぁっ!! 往っけぇぇ――……っ!?」
 カロリの雄たけびが途切れる。
 爆炎を割って、巨大アンハッピーフラワーが最後の力で襲い掛かる。最接近したエリザベータたちに――
「ええ加減にしなさいっ!!」
《RIDER SHOOTING》
 と、カロリの眼前に、赤い球体が通過していく。
 ライダーシューティングに跳ねつけられた何かが、フラワーに直撃。活動を完全に停止させる。威力はガタックバルカン以下でも、正確さならこちらが上だ。
『あ痛っ』
 それはフラワーを突き破り、ロベルガーIII世の頭部に、ピコッと命中した。
「…………あっはっは。これぞナニワン流ツッコミの極意や!」
 レモンの投げた、赤いピコピコハンマーだった。
「……待てーっ!? お前がゴールかよ!?」
「お疲れさーん」
 あんまりなオチに激怒するカロリに、掌をひらひら返すレモン。ドレイクも、
「すみませんお嬢さん、貴女の無茶はこれ以上見るに耐えません。これこそまさにひとつの、ひとつの……」
「『ゴールのない』暗闇の中で這いずり回る?」
「そうそう、それそれ」
「加賀美さん……あのナニワン弁蹴り飛ばしていい? 答えは聞かないけど」
「……まぁ何だ、カロリ。お前の無茶は俺以上かもな、うん」
 そんな中空のカロリは、ガタックエクステンダー・エクスモードでガタックに救出されていた。
「流石は矢車兄さんの妹だ。感謝する、プリンセス・カロリ」
 そして、なおもエクスモードに相乗りしていたサソードが。
「……………………」
 無言で、エリザベータを見つめ。
 仮面の前に剣を立て、胸を張り捧刀する。
「……………………」
 微笑んで、少女はうなずく。
 それだけで、全てが伝わった。
「待たせたな天道。最後の仕上げだ!」
「ズッバーン!」
 ボウケンレッドが、ダイボイジャーの左肩に乗る。ズバーンも、雄たけびと共に聖剣モードに変形した。
「…………フッ」
 天道も、パーフェクトゼクターを呼び出した。
「女性のためとあっては、仕方がありませんね」
「我がライバルよ! 友を頼んだぞ」
 主のないザビーゼクターに続き、自らゼクターを外し空に放つ大介、剣。
「天道! 俺のも持ってけ!」
「アニキ、俺たちも!」
「どうせ俺たちは脇役だ……」
 さらには加賀美、影山、矢車までも、天道に託した。相棒を。
「……いいだろう」
 と、だけ、天道は答えた。
《KABUTO POWER》
《THEBEE POWER》
《DRAKE POWER》
《SASWORD POWER》
《GATACK POWER》
《KICK HOPPER POWER》
《PUNCH HOPPER POWER》
《ULTIMATE ZECTER COMBINE》
 全てのゼクターの力が、カブトのもとに揃う。
 全てのライダーの力が、カブトのもとに集結したのだ。
「ゴールデンスラッシュ・アドベンチャードライブ!」
 ボウケンレッドもまた、ボウケンジャーひとりひとりの思いを、希望を、夢を、そのまま力に変えた。
《ULTIMATE HYPER CYCLONE》
『はぁっ!!』

「ピュピューッ!!」
「キュキューッ!!」
 天使たちの力に。ふたご姫の、祝福の力に守られながら。
 エリザベータは手を伸ばす。
 砕け散る機体の中、遂にヒビの入った香水瓶に。
 独りぼっちの、女の子に。

『誰も私のそばにいない』
『皆みんな、私のそばから去っていった』
『私が、皆を拒絶したから』
『あの人も、私のそばから去っていった』
『私を怖がって。私を鬱陶しがって』

 哀しき意思が、無垢なる少女に語りかける。

『あんたも、そうなるわ。そうなるに決まってるわ』

「わらわは……」

『そうやって恋に焦がれながら、全てを奪われるがいいわ。今の私のように』

「わらわは……それでもよい。それで、ファンゴが幸せなら」

『……………………え?』



『怖い? どうして?』
『……俺はお前の思いに応えられる自信がない』

 どうして? どうして? どうして?

『ナギサ……そうか、あんたのせいで』
『メグ、お願い聞いて!』

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

『このままじゃ俺のせいで、お前がダメになってしまう』

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

『そんなあなた、私は見てられないの!』

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

『俺は……それでいい。それで、君が幸せになれるなら』

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?

『だから、あなたも気づいて……あなたに必要なのは、この人だけじゃないって』

 どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?



 誰もいない部屋。
 終わらない闇。
 止まった時。

 鏡の前で。
 香水瓶が、ひび割……



 ――おばあちゃんが言っていた――



(え?)

 ――友情とは友の心が青臭いと書き、愛情とは二つの青臭い心を受け止めると書くってな――

 思い出した。ずっと忘れてた。
 あの時、鏡の中から、声がしたのを。
 そこに映ったのは、太陽の翼を背負った、赤い仮面と。

 ――青臭いなら青臭いで、本気でぶつけなければ意味がない……だろ?――

 月の翼を背負った、青い仮面。

 ――いつか、君にも来るさ。もっと大事なものを、つかめる日が――

 そのふたつの影は、言いたいことを一方的に告げ。
 返答も聞かず、もつれ合いながら姿を消した。



 そして、今。

「…………わらわは」
 天使の羽根が、輝いていた。
「…………わらわは、もっと大事なものを、つかんだから…………」
 グランドユニバーサルプリンセスのものとは違う、小さな、質素な翼。
 だけど優しく、麗しい、高貴な翼。
 その翼に包まれ、メグは静かに。
 目を閉じた。

『そうか……』
『私にも』
『いたんだ』

『ともだち、』
『が――』





「わあああああああああ!!」
「きゃああああああああ!!」
「おおおおおおおおおお!?」
 変身が解けた。翼が消えた。
 というわけで、ふたご姫が落下して来た。
 もちろん、エリザベータも落下してきた。
「おおおおおおおおおおっと――ぉぉおお!?」
 そこにすかさず滑り込み、まとめてキャッチしたのはボウケンブラックだった。スコープショットでワイヤーを放ち三人ごと捕獲、引き寄せる。
「ぐぇっ」
 勢いを付け過ぎて三人を受け止め損ね、下敷きになったが些細なことだ。
「おい野菜野郎! 詰めが甘いぞ、それでもサージェスレスキューか」
「うるせえ! いきなり元に戻るなんて思わねえよ」
 悪態をつく映士をよそに、起き上がった真墨はアクセルラーでエリザベータの手の中を照らす。
「ハザードレベル0、か。それじゃあ回収する必要もないな。それでいいだろ、明石?」
「当然だ。グッジョブ、エリザベータ」
 力強くサムズアップする明石。
 グラウンドの中心で、天を指差す天道。
 微笑むふたご姫。

 エリザベータが下を向くと。
 彼女の手の中には。
 陽の光に照らされた、空の香水瓶が。
 無傷で、きらきら輝いていた。



「マジック・ポーションを助けたいという皆の思いに、魔法が――宇宙の授けた光の答えが応えたんだ」
 結局、ヒーローとしては何もしなかったヒカルがつぶやく。
「ファインもレインも、そしてエリザベータも。生徒たちは誰も、光の答えを望まなかった。それに応えたからこそ、光の答えを授けなかった……」
 変身の必要がないなら、それに越したことはない。自分は既に、後輩に後を託しているのだから。
「光の答えは、上から押し付けられるものじゃない。どんな魔法も、自分の感性で、自分が思うように使うもの、か」
 空を見上げる。……光の者が住まう星は、あちらのほうだったか?
(矢的先生、これがあなたの言っていた、人間の持つ「限りのない可能性」なんですね)

「魔法、それは聖なる力、未知への冒険。そして、勇気の証――なんだからね」


update : 2007.06.06
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