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第三章

「アンハッピーの種ちゃ〜ん、ハッピーを奪って大きくな〜れ!」
 高らかに笑う、黒い魔法少女。振り返るリオーネ。
「ビビン!」
「アハハハハ、今度こそあんたのハッピーを吸い尽くしてあげるわ!」
 フランの手にある香水瓶に張り付くは、最後のアンハッピーの種。
「きゃあっ」
「や、やめてっ!」
 茎を伸ばし、根を張ろうと迫るアンハッピーフラワーから、フランをかばおうとするノーチェ。
 が、それと同時に。
「スタートアップ!」
 ボウケンシルバーに変身した映士が、ふたりをレスキューし、プレシャスから引き離した。
「ビビン、どういうこと!? あなたは私たちと友達に――」
「……お・ば・か・さん♪ あたしはハッピーを奪いに来ただけよ」
 駆け寄るリオーネに、ビビンは指を振って答える。
「そう、あのプレシャスのね!」
『何ですって!?』
 驚くプレシャスの意識に、ボウケンシルバーはきっぱりと答える。
「全ては俺様たちの策、ってわけだ。お前の意識を引っ張り出すためのな!」
 今ハッピーを奪われているのは、フランでもノーチェでもない。
 人心を乱す《マジック・ポーション》自身のハッピーだった。香水瓶からは人型の黒い影が現れ、隠された姿形を暴き出そうとしている。
「これぞまさしく、計・画・通・り!」
「過程や方法など、どうでもよいのだぁ! これでアンハッピーフルーツを収穫し、今度こそふたご姫に……」
 ビビンに続き、エドちんも勝利宣言をするが。
「さぁ、プレシャス回収よ!」
「おぅ!」
「!? 話が違――」
 ビビンとシルバーに無視された。
「アンハッピーフルーツ、ハザードレベルがいくつか楽しみだぜ!」
 ちなみに映士の持つ《ゴーゴーチェンジャー》には、ハザードレベルをサーチする機能はなかったりする。
『……フフフフフ、やってくれるじゃなぁい?』
 しかし、プレシャスの様子がおかしい。
「――! お前ら逃げろ、口塞げ!」
 生徒たちを後ろにかばい、シルバーが構える。アンハッピーフラワーから、黒い霧が噴き出されたのだ。こんな能力があるとは聞いていないが……
 最初に気づいたのは、エドちんだった。
「おいビビン、まさかこれは!」
「そんな……これは、ブラックアクセサリー!」
「知ってるのかビビン!?」
 ブラックアクセサリー。ふたご姫――グランドユニバーサルプリンセスの妨害に業を煮やしたブラック学園長が、ビビンに与えた新たな闇の道具。
 だがその全ては、祝福の力で消失したはずだが。
「特大のアンハッピーフルーツを作るため、取り憑いた者の一生分のハッピーを吸い取ってボロボロにする……それがどうして、今ここに!?」
「一生分のハッピーだぁ!? それじゃあまさに、あのプレシャス――《マジック・ポーション》のことじゃねぇか!」
「え!? ちょっと待って、あんた今何て言ったのよ、《マジック・ポーション》ですって!?」
「あぁ? 何だ、まだプレシャスの名前言ってなかったっけか?」
「何で早く言わないのよー!?」
 口喧嘩をし出すビビンとシルバー。その間にも、アンハッピーフラワーは暴走を続ける。プレシャスの意識に乗っ取られたようだ。
「《マジック・ポーション》。幻の、ブラックアクセサリー0号よ……あたしも、噂でしか聞いたことなかったけど」
『ウフフフフ……! その通りよ。さぁあんたたちのハッピーも根こそぎ奪ってやるわぁ、でも安心して、その前に結婚を前提にしたお付き合いで、最高の快楽を味わわせてあげるからーっ!』
「断る! 俺様は冒険のほうが断然いいぜ! サガスピア!」
 サガスナイパーを槍状に変形させて、迫る樹木を斬り伏せるボウケンシルバー。
 だが撒き散らす瘴気が、生徒たちを捕らえる!
「きゃあっ!」
『フラン!』
 転倒するフランに、アンハッピーフラワーが迫る。サガスナイパーで狙おうも、スピアから変形させる時間はない――
 そう判断する前に。シルバーは、全速力で駆けつける二つの影を見た。
『やめろっ!』
 片方は小さく、片方は大きい、ふたりの女の子。
「……ふたりとも?」
 フランのチームメイト。チームフランのふたりだった。
「勘違いしないでフラン」
「私たちは、こういうのが大嫌いなの」
『カップルとか恋とかって、余計なお節介をする奴がね!』
 その手を伸ばすは、アンハッピーフラワー。襲い掛かる闇の生物の動きを止めようと、必死にもがいている。
『早く立って!』
「……うん!」
 自分の力で、フランは立ち上がる。笑って、シルバーが飛び上がった。
「グッジョブ、いい冒険だぜ! サガスラァッシュ!」
 サガスピアから伸びた光の刃が、ふたりに抗うアンハッピーフラワーを斬り裂いていく。
 だが、勢いをつけ過ぎだ。衝撃でふたりをも吹き飛ばしてしまう。
『うわぁっ!?』
「ブロウナックル!」
「ゼクトマイザー!」
 だが、フォローは万全だった。
 ボウケンブルーの巻き起こす風が、ふたりをふわりと浮き上げて。
 アンハッピーフラワーの破片は、仮面ライダードレイクのマイザーボマーが完全に粉砕する。
「レディの扱い方、もうちょっと考えたほうがいいよ、シルバー」
「全く……お怪我はありませんか、プリンセス」
『は、はい……』
 これが本当のお姫様抱っこ。ブルー、ドレイクの両腕に抱きかかえられる、チームフランのふたりだった。
「バケットスクーパー! もう、映ちゃんは乱暴なんだから」
「うるせぇ! 子供は怪我作って帰って来るくらいがちょうどいいんだ」
 援護に現れるボウケンイエロー、悪態をつくシルバー。
「ハザードレベル288。プレシャスを回収します!」
 そして、最後にボウケンピンク登場。アクセルラーを収納し、構えるはハイドロシューター。
「よっしゃぁ! 全員で行くぜ!」
 サガスナイパーを構え宣言するシルバーの横に、ブルー、イエロー、ピンク、ドレイクもついた。
 狙うは、暴走するアンハッピーフラワーの根元。
「サガストライク!」
「ナックルキャノン!」
「スクーパーファントム!」
「シューターハリケーン!」
「ライダーシューティング!」
《RIDER SHOOTING》
『ファイヴ・ストライク!!!!!』
 五人の必殺光線が、闇の樹木を根こそぎ吹き飛ばす。
「やったか!?」
「ダメだよ映ちゃん、それはやってない時に使う台詞だよ!」
「……そのようですね」
 イエローを肯定するピンク。
「道理で、さっきからプレシャスが静かだと思った」
 肩をすくめて、ブルーが上空を見上げる。
「! 《マジック・ポーション》が!」
 ビビンも気づく。アンハッピーフラワーに憑かれていたはずのプレシャスが、宙に浮かんでいる。
 飛んでいく先には――いつの間に現れたのか。黒い円盤が飛来していた。



『ミルロ?』
 学園に戻ったファイン、レインを迎えたのは、加賀美だった。
 そしてここは、彼がふたりを連れてきた美術部部室。
 当の加賀美は、独り離れて。部室の片隅で大切に飾られた絵を、いとおしそうに見つめていた。絵の中で不器用に笑う少女に、何かを語りかけるように。
「……私ね」
 ミルロは、笑って呼びかけてくる。彼女の、たくさんの絵を背に。
「ふたりに、たくさんの大切なものをもらったの」
「ミルロ、この人って……」
 レインが、ミルロの描いている一枚の絵に気づく。茶髪の、端正な男性が、青いドレスを着たミルロに絵を指導している。優しげな笑顔で。
「ええ、アートニー先生。私に絵を教えてくれた人……」
 ミルロの胸元には、エメラルドのブローチがあった。絵の中にも、ふたご姫の目の前にいるミルロにも。
「アートニー先生から、このブローチを誕生日プレゼントにもらった時。とっても嬉しかった。嬉しかったから、無理を言って、このブローチに合うドレスを作ってもらったりもした……お母様も驚いてた、私がそこまでするなんて、って」
「ミルロ……それじゃあ」
 レインの言葉に、ミルロはゆっくりうなずいた。
「初恋、だったのかな……今ならそう思えるの。あの時私は、まだ恋を知らなかったから」
 立ち上がり、別の絵を手に取る。ファインが覗き込むと、そこには無邪気に笑う男の子が。
「その子、エストヴァン?」
「うん」
 かつてふしぎ星で、ミルロが婚約させられかけた相手。もっともその責は全く別のところにあり、まだずっと幼い彼は遊び相手としてミルロを慕っていた。
「今でも、お手紙をくれるの。覚えたての文字を一生懸命書いて……この前は絵もプレゼントしてくれた。だからお返しに、チョコを贈ってあげたのよ」
「それじゃあ、パステルとおんなじだね」
「…………うん」
 ちょっとだけ頬を染めるミルロ。彼女に告白し、既に学園を去った元・美術部部長とは、今も文通を――絵のやり取りを続けている。
 彼女が初めて知った恋は、それが実る前に終わったか……それは誰にもわからない。
 だが、明らかなことはある。
「でもこれは、きっと全部、ファインとレインのおかげ……だと思うの」
『私たちの?』
「ファイン、レインは、私にたくさんのことを教えてくれた。言葉に出す勇気、前に進む勇気……友達に手を差し伸べること、恋の素晴らしさ……
 私だけじゃない、ふしぎ星の皆も、学園の皆も。ふたりがいたから、笑顔になれた。ふたりの笑顔をもらったの」
「……違うわ、ミルロ」
「あたしたちはお節介なことも、いっぱいしちゃった……」
 レイン、ファインが、ミルロを遮って話し出す。
「私たちね、プリンセスパーティーの、ベストスイーツプリンセスコンテストの時。プロミネンスの力でリオーネを助けようとしたら、そのせいで、アルテッサのスイーツを壊しちゃったの」
「きっと天道さんは、そういうことを言いたかったんだと思うんだ……誰かを思ってしたことが、必ずしも誰かのためになるわけじゃないって」
 ふたご姫はふたご姫なりに、考えていた。天道の言葉の意味を。
 ふたりは天道と仲良くなりたかった。だから、彼の言葉を真正面から受け止めていた。何故そんなに辛く当たるのか、それを知りたかったのだ。
「私たちがどんなに心を込めて、美味しくなぁれって思って料理を作っても、上手く行かないのと同じように。余計なものばかり入れて、結局ダメにしちゃうのと同じ……」
「あたしたち、また、しょぼっとプリンセスからやり直しだね」
 友の言葉を、黙って聞いているミルロ。
「あーー。あのさ」
 ……見かねてか。加賀美が、申し訳なさそうに会話に加わった。
「よくわかんないけど、お前らまだ子供だろ? 何度も失敗して当たり前じゃないか」
『加賀美さん』
 顔を上げるふたご姫に、加賀美はバカ正直に答えた。自慢にもならない、自分の経歴を。
「俺なんて失敗ばっかりだぜ? カブトの資格者になれなくて、ザビーの資格を放棄して、ガタックの資格者になってからも失敗ばかり。罠にはまって同じライダーと争ったり、天道を疑ったこともあった。大人になっても、何にも変わってない。
 でも、これが俺なんだ。こんな自分にだって、出来ることはあるんだってわかったから、俺は何とかライダーをやってこられたんだ。加賀美新をやってこられたんだよ」
「自分に……」
「出来ること……」
 うつむくファイン、レイン。その瞳に、輝きは戻らない。
 と――ミルロが立ち上がった。丁寧にしまわれた絵を探り、見つけ出したのは。
「……ミルロ、これ」
「あの時の……」
 学園の制服を着た自分たちが、そこにいた。最初の授業で、減点承知で魔法を使って、あわや退学になりかけた時のものだ。
 消沈して謝る自分たちを、キャメロットは優しく受け止めてくれた――その時の絵だった。
「ファイン、レイン、私ね」
 小さく、だがはっきりと聞こえる声で。ミルロは、友に呼びかけた。
「これからもずっと、ファインとレインの絵を描き続けたい。笑ってる時も、泣いてる時も、へこんでる時も、はしゃいでる時も、全部描きとめたい」
『……ミルロ』
「難しい絵もたくさんある。けれど、失敗に立ち止まらず、恐れずに、先に進む勇気を、ふたりにもらったから――
 そんなふたりだから、ふたりの絵を描きたいと思ったの」
 そっと、手を差し伸べる。か細くも、暖かい手を。
「一緒に頑張りましょう?」
 ケンカすることも、叱られることもある。
 でも、きっと仲直りできる。またお喋りして、ときめいて……羽ばたいていける。
『……………………うん!』
 私たちは。
 友達だから。
「――ファイン、レイン、ダメー!」
 ……シフォンの静止は間に合わなかった。
 ミルロの手を取ったまま、ふたりは突如現れたシフォンのほうを向くと――
 そこに、天の道を超える学園長がいた。
「天道?」
 加賀美を無視し、無表情に天道は見下ろした。ミルロを。
 そして、宣告する。
「ミルロ、減点だ」
 …………加賀美に、その言葉を理解するには少々の時間を要した。
『そんな!』
「いいの、ファイン、レイン。覚悟は出来てたから。それでも私は、ふたりを――」
 そして、その言葉を受け止める時間も。
「心構えは結構だが、それだけは何も変わらない。減点の事実もな」
「天道……」
 少しずつ、搾り出す。時間をかけて出した、自分の答えを。
「ちょっと待て天道!!!!!!」
 一気に放出する。その答えに基づく、加賀美の意思を。
「……何だ加賀美、大声は迷惑――」
「せっかく……せっかく、ミルロが勇気を出したんだぞ。ふたりのために!」
「それがどうした、助け合いは減点、それが俺のやり方だ。助けたほうが減点に変えただけでも――」
「ミルロが、ファインとレインのためにしたことなのに! それが――、それがお前の正義か天道!?」
「馬鹿馬鹿しい。おばあちゃんが言っていた……」
 天道は、普段と全く同じ仕草で、同じ表情で宣告する。天道語録≠。
「正義とは俺自身。俺が正義だ」
「…………………………………………」
「…………………………………………」
 睨み合う両者。一方は歯を食いしばり、感情を露出させることをためらわない。もう一方は微塵も表情を動かさず、ただ眼にだけ堅牢な意志を宿らせていた。
 それを止めることも出来ず、空気に押され、身動きの取れない子供たち……
「煮詰まっているようだな」
 空気を割ったのは、熱き冒険者。
 彼もまた、揺らぐことなき意志をもって、ためらうことなく宣言した。
「ならば、思う存分やり合えばいい。俺が立ち会ってやる、このボウケンレッドが!」



 天空の太陽が、厚く黒い雲に隠されようとしていた。
「お前のおばあちゃんが言っていた……子供は宝物。この世で最も罪深いのは、その宝物を傷つけることだ!」
 校舎から少し離れた第一グラウンドで、加賀美が対峙する。天の道を往く者に。
「子供の願い事は未来の現実なんだ。それを夢と笑う大人はもはや人間じゃない。お前は教育者の風上にも置けない奴だ!」
「お前におばあちゃんの言葉を語られる筋合いはない」
 天道も、真正面から受け止める。自分とは違う道を往く者に。
「加賀美、お前は大きな勘違いをしている。ここは未来の王・王妃が集まる学校だ、ならばそれに相応しい教育が必要となる。馴れ合う為政者の治める国に未来があるか?」
「助け合うことも知らない奴に、幸せな国なんて作れない!」
 風はゆっくりと、だが徐々に勢いを増して、ふたりの間に吹き抜けている。
「お前はあいつらを子供扱いし、甘やかしているようだが、王となる者には王者として往くべき道がある。俺はそれを示しているだけだ」
「お前の言うことなんてもう信じない。俺にとってあいつらは皆子供だ、何度転んでも皆で力を合わせて、前に進もうとする子供だ。そんなあいつらの絆を、あいつらの道を、お前は踏みにじった! 俺は――お前を許さない!!」
「……………………」
「……………………」
 交錯する視線。
 向かい合う両者。

 太陽が姿を消した。

『変身!!』
《HENSHIN》

 仮面ライダーカブト。
 仮面ライダーガタック。
 鎧をまとったふたりに、既に、交わす言葉はなかった。

 カブトクナイガンの射撃を、容赦なくガタックバルカンで吹き飛ばすガタック。
 その砲撃を縫ってカブトが接近、斬りつけようと構える。が、それはフェイク。
《CAST OFF》
《CHANGE BEETLE》
 突然マスクドフォームの装甲を弾き飛ばし、破片に紛れ込ませてクナイガンを放り投げる。
 対抗しキャストオフするであろう加賀美の、脇腹目掛けて。
《CAST OFF》
《CHANGE STAG BEETLE》
 が、ガタックはそのまま突っ込んで来た。
 こちらが破片に紛れ込ませたのは、自分自身だ。かすめるクナイガンを無視し、肩のガタックダブルカリバーを抜き放ち、空拳のカブトに迫る。
 が。
 手を離れたはずのクナイガンで、カブトはダブルカリバーを受け止める。
 旋回し、戻ってきたのだ。カブトの元に。
 そしてそのまま、斬撃の応酬。
 ……その一部始終を、明石は目の前で見守っていた。決闘の邪魔にならぬよう、そして邪魔が入らぬよう、立会人として。
 無論、その闘いを見ていたのは明石だけではない。
「……加賀美さんやめて! お願い!」
「私たち、こんな戦いなんてしてほしくない!」
「手を出すな!!」
 叫ぶファイン、レインを、大声で静止するガタック。
『でも!』
 すっかり黒く覆われた空。落ち始めたしずくが、ふたご姫の頬を濡らす。
 ダブルカリバーの手を緩めずに、ガタックは――加賀美はふたりに語りかける。
「……前に、俺がザビーになった時、俺はカブト抹殺指令を受けた。迷った俺は最後、ザビーの資格よりも天道を選んだ。天道と闘う必要なんてないと思ったからだ」
 しずくはすぐさま豪雨と変わり、グラウンドに無数の槍となって降り注いだ。それも、グラウンドだけにだ。あたかも、ふたりの激戦に空が震え、天が応えたかのように。
「けれど、今は違う! 俺はこいつを絶対に許さない。どうしても許せないことがあった時は、本気でぶつかり合うべきなんだ!」
《RIDER CUTTING》
 カブトをダブルカリバーで挟み込み、放り投げるガタック。
「けど……」
「こんなのって……」
「天道だってそうだ。天道はお前たちの食べ物の扱いかたが許せなかった、だから辛く当たってたんだ」
 涙目のふたりを振り返らず、加賀美は続ける。カブトはすぐ立ち上がってくるだろう、眼は決して逸らさない。
「俺の後輩に、料理を知らず育った奴がいる。そいつは温かい手料理の素晴らしさを知り、天道の押しかけ弟子になって、一生懸命天道の課題料理を作っていた。作っては失敗し、作っては失敗して、出来損ないの料理を、いつも剣と食べていた。
 それを見守る天道の気持ちが、お前らにわかるか……?」
『……………………』
 ふたご姫は思い出す。
 ピュピュ、キュキュと出会って間もなくの頃。街での課外授業の時、スイーツのお店のお手伝いをした。厨房で天使たちは、食べ物をおもちゃにして遊んでいた。
 そのいたずらを、ちゃんと、自分たちは注意しただろうか? 正しい扱い方を、教えてあげただろうか?
「天道ぉぉおお!!」
 たとえ子供だろうと、友達だろうと。
「加賀美――っ!」
 どうしても許せない、譲れないことがあったら……
「ふしぎふしぎ……!」
「せや! あんたらおかしいで!?」
 泣きじゃくりながら、シフォンが絶叫し。レモンも続いた。
 ボロボロになりながら刀を交える、地球を救ったヒーローのふたりに。
「ツッコむかて、もうちょっとええやり方があるやろ!?」
「友達なのに、どうして――!? どうして戦ったりするの!?」
「俺と!! あいつは!! 友達なんかじゃない……!」
 レモン、シフォンが言葉を詰まらせた。
 そうだ……このふたりは……
「やめとけ」
 そこに現れる、黒い影。
「お前らに、あの二人の何がわかる?」
 迅き冒険者、伊納真墨だ。
 誰よりも仲間の絆を疑い、だからこそ仲間を理解出来る彼は。その言葉だけ口にし、子供たちのそばにいた。
 冒険者に見守られ戦うライダーのもとに、双方のバイクが現れる。局地的な嵐の中、全く揺るがぬ走行で。
 決闘も、いよいよ佳境だ。
「お前は天のもと、地の道を往くがいい」
 キャストオフした、カブトエクステンダーの一本角が、向かい風を切って突撃する。
「黙れ! お前に言われなくても、俺は俺の道を往く!」
 それを、同じくキャストオフした、ガタックエクステンダーの二本角が弾き返す。
《RIDER KICK》
 飛び上がったガタックが、自らのバイクを蹴りつける。暴風に煽られ、舞い上がったカブト目掛けて。
 たまらず、地面に倒されるカブト。背中をしたたかに打ち付けるも、勢いを利用して両手でバウンド、一回転して立ち上がる。
 と――集中豪雨の中から、ハイパーゼクターが飛来した。次元も時空も超える、最強のゼクター。
「ハイパーカブトになってみろ」
 バイクから降り、微塵もためらわず、加賀美は宣言する。
「今度は俺もハイパーガタックになってやる、それでも俺は敗けない!」
 ガタックもまた、暗雲からハイパーゼクターを呼び出す。彼が望み呼び出した、未来から現れたハイパーゼクター。
「勝負だ、加賀美」
《HYPER CAST OFF》
《CHANGE HYPER BEETLE》
「受けて立つぞ天道ぉ!!」
《HYPER CAST OFF》
《CHANGE HYPER STAG BEETLE》
 ふたつのハイパーフォーム、ふたりの最強のライダー。
《MAXIMUM RIDER POWER》
《ONE》
《TWO》
《THREE》
 両者が睨み合うだけで、衝撃が時空を歪ませる。
《MAXIMUM RIDER POWER》
《ONE》
《TWO》
《THREE》
 歪んだ時空が、周囲のもの全てを吸い込んでいく。風も、雨も。雷も、雲も。
『ハイパーキック!!』
 轟音をものともせず、叫ぶ。
《RIDER KICK》
《RIDER KICK》
 太陽に挑む翼と、月に降り立つ翼。二対の翼で飛び上がる。
 相対する最強の技、相対する意思で、激突する。
「……明石! 下がれ!」
 尋常ではない状況に、真墨が叫ぶ。
 ハイパーゼクター同士のぶつかり合いが、周囲の空間ごと吹き飛ばそうとしているのだ。
 時空ごと破壊する最強のキック同士がぶつかり合えば、その衝撃はふたりのライダーだけでなく、明石をも引きずり込むだろう。次元の狭間に。
「うぉぉぉ!!」
「おおおおぉぉぉぉぁぁああ!!!!」
 が、明石は逃げない。天道と加賀美、ふたりの信念に基づく決闘を、最後の瞬間まで見届ける。それが、ボウケンレッドの名にかけて誓った約束だ。
『はぁっ!!』
 太陽と月が激突する。
 何者にも平等に降り注ぐ、直視を許さぬ灼熱の光が、容赦なく冷徹に突き刺さる。
 闇に一筋の灯りを与える、たおやかな温白の光は、今は激情と共に輝きを放出する。
 灼熱の光を反射し、自らの輝きと変える鏡。
 総てを受け止め、なおも自らの輝きを手放さぬ太陽。
 互いの光が、互いの光を飲み込んでいく。
「伊納真墨!」
 消え行く寸前。明石は叫ぶ。ボウケンジャーのチーフとして。
「たった今から、指揮権をお前に託す。真墨、後は頼むぞ」

 爆音までも飲み込んで、光は消える。
 雲ひとつ残らぬ空の下。真墨と、子供たちは。
 グラウンドにただひとつ残された、巨大なクレーターをじっと見つめていた。


update : 2007.06.06
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