「どうせオレなんか……」
上空の円盤型怪重機から大量に飛来した小型円盤、レジストコード《プチフォー》。
重火器系は先の総攻撃で、エネルギーが心もとなく、反撃も苦しい状況だ。
そんな中で現れたふたつの影に、一同が振り返る。
青い制服の右裾がざっくり裂かれ、二の腕は肩から剥き出している。取れかけのボタンが痛々しい。脚のタイツも薄汚れ、穴だらけだ。
足元ではやけに尖ったスパイクが、アスファルトに火花を散らす。
……要するに、彼女なりのコスプレだった。
「カロ……リ?」
「今のオレはカロリじゃない――地獄姉だ!」
イエローの言葉をきっぱり否定し、どっかで見たことあるライダージャンプ的な何かで飛び上がり、円盤にライダーキック的な何かをくらわせる。
「一緒に地獄に堕ちましょう……」
続いて現れる、胸元に重そうなネックレスをつけた少女。トレードマークの黄色いリボンが千切れていて、右頬には斜めに傷跡――のメイク――が。うつむいたその表情は、長髪に隠れて見えない。
「……あのー、私もやらなきゃダメですか?」
たまらず、緑の制服にポニーテールの、要するにいつも通りの格好のリオーネが嘆息する。チームメイトのあんまりな格好に。
と、ブルーが気づく。一斉射撃の後あたりから、いつの間にかいなくなってたドレイクが、戻ってきていた。
「もしかして、あれも君のメイク?」
「女性を守り、その願いを叶えるのが私の使命ですから」
しれっと言って、カロリたちの援護に回る。
「願い?」
「そうだ……オレにはやらなきゃならないことがある」
「あの、この傷跡むず痒いしとっても恥ずかしいんで、拭いていいですか?」
イエローに答え、ドレイクに守られながらカロリが向かうは、避難し遠巻きに眺めるフランたちのほう。一方アスリーは、早くも特殊メイクがうざったいらしい。
子供たちの盾となるシルバーを素通りし、無闇かつ無意味にトゲトゲしい格好に怯えるノーチェをスルーして。リオーネが見守る中、カロリは。
「チームフランの皆、事情は聞いた! すまなかった!」
『え?』
地べたに頭をこすりつけて、土下座した。
戸惑う三人の顔も見ず、カロリはその思いをぶちまける。
「オレが悪かった……オレはわかろうとも、考えようともしなかったんだ、フランたちの気持ちを。オレたちとは違う絆を!」
「……顔上げて、カロリ」
優しく、フランが手を差し伸べる。
「私なら、大丈夫だから。もちろん辛いこともあったけど、時間がたてば、すぐ直るから。心の傷だって、野菜ジュース1リットル飲んで解消――」
『それは飲み過ぎだチームリーダーッ!?』
「え、飲もうと思えば、牛乳とか1リットル飲めない?」
「おなか壊しますわよ……」
チームメイトのツッコミにクエスチョンを浮かべるフランに、嘆息してアスリーが続く。メイクは大介に落としてもらったらしい。ついでに、中学生の麻疹〈はしか〉的な意味で痛々しいネックレスも外している。
「私は謝らないわよ。私はカロリやリオーネ、ファインやレインの友達として、やることをやっただけ。でも――」
素顔で、アスリーが微笑む。にこやかに。
「『友達』じゃなくても――同じ学園の『仲間』として。手を組むことは出来るんじゃない?」
「……一時的な同盟、って奴ね」
チームフランの長身の少女が、笑って言う。小さいほうも、
「ま、まぁ仕方ないんじゃないキョキョキョ」
「何その笑い方」
大きいほうにツッコまれながら、手をかざす。
「ね、カロリ」
まだ地面を向いているカロリの肩を、リオーネがそっと叩く。
「一緒に、行きましょう?」
「リオーネ……」
「カロリ、お前はいいよなぁ。やり直しがまだ効いて」
「若いって素晴らしいよねアニキ」
そこに現れる、元祖地獄兄弟。
「矢車アニキ――!?」
矢車は、カロリの顎をつかみ強引に立ち上げて。顔を近づけ、その瞳を覗き込む。
「……カロリ」
「…………」
「いい顔になったな。俺と一緒に地獄に堕ちるか」
「アニキ……?」
「俺たちとのたうち回ろうぜ。ゴールのない暗闇の中で、俺たちだけの光を求めて……」
瞳に輝きが戻る。カロリだけがつかめる輝きが。
「アニキ!」
「そうだカロリ、一緒に探そうぜ。真夜中の太陽、それが俺たちのパーフェクトハーモニー第三楽ぐべっ」
地獄兄妹に蹴り飛ばされる影山。
そして、チームサンバとチームフランが、手を重ねる。仲間の証として。……たまらず、カロリが叫ぶ。
「そうだ、オレたちは地獄姉妹だ!」
『うん、それ無理』
他の五人に即刻却下されたが。
そんな彼女たちを見ていたビビンが、呆れて言う。
「しょーがないわねー、じゃああたしが」
「……お前はいいや」
「えーっ!?」
カロリに即刻却下されるビビン。笑いながらシルバーが、
「んじゃ、やっぱり俺様たちとサージェスレスキューだな。何せ人手が足りないんでな、戦闘中も救助活動に大忙しだ!」
「それ単なる雑用じゃない」
「何言ってんだビビン、市井の家族を守るのだって、なかなかの冒険だぜ。エドちん、お前もどうだ?」
「ぼ、僕は……」
「……えぐえぐ」
戸惑うエドちんをよそに、すっかり輪に入る機会を逸したノーチェが涙ぐむ。
「僕の存在が忘れられてるよぉ……」
「まぁまぁ、君も頑張ってたじゃないか。皆分かってるよ」
「風とは常に読まれるもの。吹くべき時に吹く、それが風というものですよ」
仕方なく、ブルーとドレイクがフォローをしてやっていた。と。
「地獄? 天国? くだらねぇな。友達も仲間もあるもんか」
その凛とした声に、一同が顔を向ける。
「そんなのは、勝手に出来るもんだ! ライトニングアタック!」
突如飛来したラジアルハンマーが、小型円盤を次々と破壊していく。
『真墨!』
彼の闇を光に変えた、仲間たちに。
そして、学園で出会った仲間たちに。彼は号令する。チーフとして。
「何をしている! 冒険したい奴は、ここに来い!」
うなずき、全員で後ろにつく。ボウケンブラック、伊納真墨に。
「アクセルテクター! デュアルクラッシャー、ドリルヘッド!」
狙うは上空の、円盤怪重機。
『GO!』
射出されたドリルが、回避する巨大円盤へと向かい――後部をかすめる。煙を上げながらも、円盤は逃げ去った。
「くそっ!」
「チーフ代理、ターゲットの逃げた先には学園が」
と、さくら。事情を察したらしい。
「真墨」
「ああ、わかってる菜月。冒険はこれからだぜ! 総員、アタック!」
『そこまでよ!』
学園の放送室に飛来した香水瓶に、ファインとレインが立ちはだかる。
外のボウケンジャーたちを迎えに行ったシフォン、レモンが帰るまでの、時間稼ぎが目的だ。
「ここは、あたしたちがほのぼのニュースを流す場所なんだから!」
「あなたの好きにはさせないわ!」
『邪魔をするなっ!』
が、香水瓶から現れるは、アンハッピーフラワー!
胸元のベルチャームに手を伸ばす間もなく、押さえつけられるふたご姫。
闇の樹木はスタジオを覆いつくし、放送器具に侵食。カメラを、マイクを乗っ取る。
「……何を……」
「する気なの!?」
『目障りなのよ、あんたたち……』
ファインとレインに侮蔑の視線を送るは、《マジック・ポーション》の意思。
ゆっくりと、その悪しき姿を露にしていく。ボサボサの長髪をひと束にまとめ、右肩に下ろし。橙と黄緑のラインを横に、交互に編んだセーター。デニムのスカートに……
『……いつの時代の人?』
「うるさいっ」
こらえ切れずツッコんだふたご姫を放置し、洗面器でも抱えて銭湯から出て来そうな姿を完全に現した《マジック・ポーション》の意思は、どっかりとニューススタジオの椅子に座る。
「…………ウフフ。このスタジオの番組は、全宇宙に放送されるのよねぇ……!」
「! まさか!」
レインが、悪しき意思の意図に気づく。
「ここから全宇宙に、あなたの邪悪な意思を流す気なの!?」
「そんな!」
「その通り。ここで私の全ての力を解放し、世界を闇に閉ざすのよぉ……」
レイン、ファインの悲痛な叫びに、語り出す《マジック・ポーション》。
「あんたたちなんて大っ嫌い! 何が心が温かくなるよ、永遠の憧れよ。奇麗事ばかり言って、あんたたちは恋のイロハの何も知らないんだから。
恋なんて、単なる幻覚。勝手に思い込んで暴走してるだけの、大馬鹿状態よ。脳内麻薬が異常放出してるだけよ」
「レイン、のーないまやくって何……?」
「ええっと……」
「お酒呑んで酔っ払った状態と一緒ってことよ!」
「お酒飲んだことないから、わかんないや……」
「私も……」
「そんなことも知らない子供に、何が解るって言うのよ……!」
吐き捨てる。怨言と共に。
「何も知らないのよ、あんたたちは。恋が終わるってことは、全てが終わるってことよ。自分の世界全てが崩壊する。それなのに人はまた、新しい恋を始めて暴走し、また世界を壊す……くだらない、くだらない繰り返しよ」
『そんなことない!』
「黙りなさい! だから教えてあげるの、全宇宙に。私の経験全てを流して、恋なんて二度と出来ない、しようとも思えない世界を造るの!
そう、私の番組、『メグッペルの失恋ニュース』で!」
『何そのネーミングセンス』
「うるさいっ」
8,9歳児には到底理解できないセンスを持つ《マジック・ポーション》――自称メグッペル、略してメグ。このまま宇宙に、ヘンなテンションの陰気な番組が流されてしまうのか!?
『待てぃっ!!』
そこに響き渡る、神が遣わし者たちの声。
「何者!?」
「愛の、キューピッドだ!!」
「愛の、キューピッドじゃ〜〜〜!!」
天使の格好をした、剣とエリザベータだった。
『………………………………………………………………』
静寂。
「……黙ってろ」
で、アンハッピーフラワーの根に捕まるふたりだった。
『何しに来たの……?』
「決まっている、俺たちは愛を説く伝道師!」
「坊ちゃまぁ〜〜〜♪」
「うるさい黙れ」
身体をぐるぐる巻きにされながらも言葉を止めないふたりを、さらにきつく締め上げるメグ。
「そんなに説きたいなら教えてあげるわ。愛の真実を、そう、そんなもの何処にもないってことを――」
そして、エリザベータの頭をつかみ。
「あんたの頭に直接ね!」
『エリザベータ!!』
「我が最愛の友に何をする!?」
ふたご姫、剣に向ける。歪んだ笑みを。
「教えてあげるわ……これが愛の果てにあるものだって!」
と、スタジオのモニターのスイッチが入った。アンハッピーフラワーに支配されたそれが映し出すのは……
メグの心の中にある、哀しき記憶だった。
小さなアパート、六畳一間の一室。
『ヘッヘッヘッヘ、あーやっぱりマッツンは面白れぇなぁ! ハッハッハッハ、天才じゃねぇかこれもう、もう天才の域に達してるじゃねぇかハッハッハ』
そこで育まれるは、ふたりの若者の愛だった。
『フゥーハッハッハ! あーんー……おい! コラァー!!』
その結末など知らぬふたりは、
『何さらしとんねんコラァ!! 座れここ! お前、前からいっぺん言わなあか……このガキホンマ! いてまうどぉ!?』
『おっさんか!』
今日もたわいのない、幸せな日常を、
『テレビ見とるやないかい!』
『テレビ見とるやあれへんやないかい!』
『なにぃ』
『ワシ一所懸命掃除しとんのにワレ何さらしとんじゃコラァ!?』
日常を…………
『あのねぇ、男が掃除して何がおかしいのよ。あなた、逆タマになりたくないの? 逆タマになりたくないの?』
『お前ンとこめちゃめちゃ臭い家やったやないかい!?』
『家のこと言うなアアァァ!! 産ませてよ!? あの日のように産ませてよ!?』
『何抜かしとんじゃコラ!?』
『これをね、こうやって、ドーン!』
『人の話聞けやァァアア!!!!』
……………………
『……なに、今の』
シリアスな展開にも、8,9歳の少女が見る番組にも相応しくない光景を見せられたふたご姫が、ごく正直な感想を述べる。
で、それを見せた張本人メグは。
「…………………………………………間違えたわ」
『えーっ!?!?』
「うるっさいわね! 今度こそ教えてあげるわ、私の見た絶望を!」
「……絶望?」
メグが覗き込むのは、無垢なる少女の瞳。あくまで標的は、エリザベータであるらしい。
「貴様、その汚らわしい手を離せ!」
「見せてあげるわ、恋の末路を。あなたの未来が、世界が終わる様を――」
『エリザベータ!!』
剣、ふたご姫の制止の声を掻き消し、モニターに写し出されたのは。
エリザベータの、心の中だった。
……一目合ったその日から、恋の花咲くこともある。
幼き頃の無邪気な約束。大きくなったらお嫁さんになってあげる、と。
夏の海、互いを互いと気づかず果たした再会。
やがて始まった同棲生活。結婚は、秒読み段階に入っていた。
それなのに……
『……レイン、どうしてわらわを』
『「友達」でしょ?』
あなたのために、私は全てを捨てた。
身分も、地位も。家族も、故郷も。
友人とも縁を切った。あなた以外、誰もいなくなった。
それなのに…………
『怖い? どうして?』
『……俺はお前の思いに応えられる自信がない』
どうして? どうして? どうして?
『レイン……そうか、お主のせいで』
『エリザベータ、お願い聞いて!』
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
どうして? どうして? どうして? どうして? どうして? どうして?
誰もいない部屋。
終わらない闇。
止まった時。
鏡の前で。
香水瓶が、ひび割れた。
「!」
「…………エリザベータっ!!」
ファインの呼ぶ声に、エリザベータが我に返る。
それを見届けて、レインが睨むは悪しき意思。
「これは……エリザベータじゃない。あなたの記憶と摩り替えたのね!?」
「そうよ。けれど……それが、何?」
ゆっくりと、メグが振り返る。闇の底から。
「同じよ、あんたも。あの薄汚い泥棒猫と! そうやって私たちに近づいて、応援する振りをしてあの人を掻っ攫っていく! 身に覚えがあるでしょう……?」
「違うわ! 私はただ……」
レインの青い瞳を覗き込むメグ。そう、よく似ている。あの女に。
「私は全部見てたもの。双子の妹の想い人を奪うだけでは飽き足らず、今度は友達の初恋も――」
「レインはそんなんじゃない!!」
「あんたも同じじゃない」
今度の標的はファインだ。たまらず叫んだ少女の頬をさすり、
「あんたはずっと、あの王子しか見ていない。自分に向けられる人の想いを踏みにじり、友達という言葉に逃げて心を引き裂く! 最低の人間ね」
「そんな、あたしは……」
「笑えば済むと思ってる? 謝れば済むと思ってる? 話を聞いてもらえると思ってるの!?」
「ファインに……、なんてこと言うのよ!!」
レインが声を荒げるも、メグは止まらない。
「ただ事実を伝えているだけよ。あんたたちふたご姫が、仲良し計画の名目でたくさんの人を傷つけてるって!」
「そんな……」
「そんなこと……」
言葉が出てこない。胸によぎる記憶が、ファインとレインの喉を詰まらせる。
アルテッサとの対立から、ブライト、シェイドを巡っての喧嘩……そして最後に出てきたのは、天道の言葉。
手の込んだ料理ほど不味い。余計な手心を加えるから、マトモな料理ひとつも作れない。料理一つできないお前たちに、人助けなんて一万年早い――
このまま酷い料理ばかり作り続けては、やがて自分たちの周りにも、誰一人いなくなってしまうだろう。そして最後には、自分たちも離れ離れに……
「そんなことない? ――あるわよ!!!!」
ふたご姫が答えを紡ぐ前に、メグが断言する。
そして再び、エリザベータを視界に納め、呼びかける。
「ねぇ、そうでしょエリザベータ。あんたもそう思うでしょ?」
自分と同じ存在に。
「友達に、何もかも奪われたあんたなら……」
同じはずの存在に――
「わらわは…………」
顔を伏せたエリザベータが口を開く。
「さぁ、吐き出すのよ。あんたの口から。世界を壊された者の恨みを! 呻きを! 絶望を!」
煽るメグの声を受け止めながら、エリザベータは。
「わらわは…………」
「…………それでも、ふたりの友達じゃ」
自らの心の内を、吐き出した。
「……………………は?」
沈黙は、メグの間の抜けた声で破られた。
「何言ってるの? あんたは友達に裏切られ――」
「わらわは、それでも構わぬ……」
「嘘でしょ、嘘よね」
「嘘ではない。わらわは忘れておらぬ……レイン、ファインから受けた恩を」
『エリザベータ……?』
ふたご姫が、友の顔を覗き込む。
「ふたりがおらねば、わらわはシャシャ、カーラという友達もなくしてしまうところだった」
凛とした心が、そこにあった。
「ふたりがおらねば、わらわはファンゴと出会うこともなく、質素の素晴らしさも知ることなく――」
「そいつらを崇める声は聞き飽きたわ!!」
メグの声はもう、エリザベータの心を切り裂くに及ばない。
「建前は辞めなさい!! 言いなさいよ、あんたの奥底の本音を!! どうせあんたも、そいつらを鬱陶しく思ってるんでしょ!?」
「それでもわらわは、ふたりを傷つけることは出来ぬ」
どんなに精神を、身体を締め付けられようと、何者にも邪魔されない心。
「わらわは……祝福したいのじゃ。友達を」
「嘘をつくなァッ!!」
「嘘ではない!!」
心傷つき、地べたを這いつくばろうとも、決して忘れぬ心。
「わらわはファンゴにも、レインにも、たくさんのものを貰ったのじゃ。それは決して失われない……何があろうと」
全てにおいて頂点に立つ女王に相応しい、高潔な心。
「嘘吐きめ!!」
「だからわらわは捨てぬ。ファンゴへの想いも、レインとの友情も」
誰も彼女の心を奪えない。
「嘘吐きめッ!!」
「そして、わらわは返さねばならぬ。ふたりに貰ったものを――」
何びとたりとも、彼女の笑顔を奪えない……
「嘘吐きめェッ!!」
「これが、わらわの……わらわの」
「ノブレス・オブリージュだッッ!!」
剣の一閃が、闇を薙ぎ払う。
エリザベータの身体中に巻きつく、闇の蔦を。
『剣さん!』
「これ以上の友への侮辱は、断じて許さん!!」
束縛から抜け出した剣は、サソードヤイバーを振るいふたご姫も救出し。
「じいやが言っていた。セレブとはcelebrity、名声、名士の意! 金銭だけでなく、全てにおいて一流に……頂点に立つものを指すのだってな」
そのままメグに向き直る。大切なものを傷つけた、倒すべき敵に。
「そんなセレブだからこそ、持たざるもののために果たすべき義務がある。それが、ノブレス・オブリージュ!!」
高貴なる蒼き剣は、真っ直ぐにメグに――《マジック・ポーション》に向けられる。
「メグッペル、貴様は間違っている! あらゆる障害も、全ては愛の試練――それを忌み嫌い、逃げていては何も得られない」
哀しき絶望を射抜く、剣の心。
「時には衝突し、そしてより分かり合ってこそつかめるもの。それがツン・デーレ!! それが愛だ!!」
その背中には、子供たちがいた。子供たちの思いを背負って、剣は立っていた。
「全てを捨てて得られるものなど何もない。全てを背負い、全てにおいて頂点に立ち! 全ての人々に祝福されてこそ、真のル・クプルだ!!」
「……そうだよ」
ファインがつぶやく。
「あたしが、シェイドとブライトのことで、レインとケンカしちゃった時。あたしたちを仲直りさせようって、頑張ってくれたのはプーモだった。
あたしは……あたしたちは、ひとりでも、ふたりでもなかった」
「あの時だってそうよ」
レインも続く。
「ベストスイーツプリンセスコンテストで、アルテッサがリオーネに塩を送ったのは、嫌がらせだけじゃなかった。砂糖をこぼしてしまったリオーネに、失敗の責任は自分で負うべきだって教えたかったから、アルテッサは憎まれ役になったのよ。
アルテッサには、努力して立派なプリンセスになるという信念があったから……」
ふたご姫の中に、最初からあった答えを。
「だから、あたしたちは逃げない」
「どんな障害も乗り越えて、どんな人たちとも分かり合って見せる」
『全てのハッピーを、守るために!!』
「その通りだ! プリンセス・ファイン、プリンセス・レイン!」
剣が、大きくうなずく。
「流石は、我がライバル・天道総司が認めただけのことはある」
「え?」
「それって……」
「何を言う。天道がお前たちに本気になったのが、その証拠だ」
笑って、剣は呼びかける。
「影山兄さんを見ろ、何をやっても、どんな目に遭っても天道に無視され続けているぞ。あれはあれでVIP待遇――」
『いやその話はいいです』
分かり易過ぎる反例を出され、思わず止めるふたご姫。それはそれで影山をスルーしてるのだが、まぁ影山だから仕方ない。
そして、最後に剣は呼びかける。
「……エリザベータ」
最愛の友の、真の名を呼んで。
「?」
「良き親友〈とも〉を持ったな」
笑顔で、エリザベータがうなずいた。
「…………茶番は終わりかしら?」
「茶菓子が足りなかったようだな。安心しろ、今からたらふく食わせてやる」
《STAND BY》
アンハッピーフラワーの隙間を縫って、サソードゼクターが歩いてくる。飛び上がったそれはメグの横顔をかすめ、剣の左手に収まった。
「俺の名は神代剣。神に代わって剣を振るう男――」
彼の魂〈けん〉と、彼の相棒〈ゼクター〉。
「だが、今は!」
剣は、両手のそれに呼びかける。彼の誓いを破ることを。
「今だけは!」
自らの名を捨ててでも、為すべきことがあると。
「エリザベータ! 君のために、君に代わって、剣を振るう!!」
彼の相棒が、それを断ることなど、あろうはずもなかった。
「変身!」
仮面ライダーサソード。
今もなお、その剣は、神に代わって振るわれる。
何故なら。
神とは、彼の心の中に在り。
彼は、全ての人々の心の中に居るのだから。